けまろう

国境の夜想曲のけまろうのネタバレレビュー・内容・結末

国境の夜想曲(2020年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

『国境の夜想曲』鑑賞。原題の"Notturno"はイタリア語でノクターン、夜想曲の意味。イラク、シリア、レバノン、クルドを舞台にしたドキュメンタリー。世界市民的な視座で描いた中東地域で起きていることの真実。基本的には暗い雰囲気と悲しい物語が紡がれるが、監督は懸命に生きる力強い生命の光であるという。
冒頭、軍隊の行進シーンでまず度肝を抜かれる。戦争が生活の一部になっているこの地域の特殊性が提示される。その後、ISISに息子を殺された老婆の哀悼歌が歌われたり、国境を警備する女性たちやクルド人治安部隊ペシュメルガの姿が描かれたり、難民キャンプでの様子が映されたりなど、身近な戦争を暗示させる複数のシーンが、それぞれ折り重なり一つの大きな像を描くように多層的に組み込まれる。悲しく厳しい現実に比した美しい景色がまさにドキュメンタリーの真髄といった印象だが、特に油田の炎を背景に青年が川に浮かぶシーンの美しさなどは思わず息を呑む。車やバイクが行き交う夜の街で、静かにカメラを見つめる汚れ疲弊しきった馬の姿なども実にアイコニックなイメージだ。
皮肉なのは精神病棟で行われる演劇だろう。医師はこの演劇の中にこの地域一帯にある問題を詰め込んだという。それを演じる五人の精神病患者、一連の所業が狂ったものであるという裏にあるメッセージを感じた。(そうだとすれば患者に対しては非常に失礼だが…)
最後に、子供たちの姿が印象的だ。ISISに目の前で人を殺されたヤジディ教の少年少女たち。カウンセラーに語る痛ましいエピソードや起きた出来事を描写した悍ましい絵画、特に吃語症の少年から語られる内容がグロテスクである。
兄弟たちのために夜明け間も無く身を粉にして働く長男の姿も勇気を与えてくれる。ウクライナ情勢が揺れる今だからこそ観るべき作品のようにも感じる。
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