豚

ニューオーダーの豚のレビュー・感想・評価

ニューオーダー(2020年製作の映画)
3.4
"荒唐無稽"と感じてしまう感情がこの映画の罠

メキシコの富裕層であるダニエルとマリアンの幸せな結婚披露宴が、ふとしたきっかけで一変してしまう様を描いたクライムスリラー。
瓦解していく現実を認められない、どこかほかの世界の出来事としか認知するしかない、そういった無力感を徹底的に叩きつけてくる作品。

片方から見れば「テロリスト」、片方から見れば「執行者」という構図に加え、それらを俯瞰する「略奪者」、「監視者」という、非常に言葉に表すのが難しい相関性のなか進んでいく物語。
88分とは思えないほど濃密に、残酷にこちらの体力と精神をえぐる。

「父の秘密」で鮮烈に印象付けたミシェルフランコだっただけに、相当覚悟して観たものの、そこをさらに上回る「しんどさ」「きつさ」みたいなものは相変わらずで、鑑賞後どっと疲れてしまった。
ある種、禅問答のようなテーマでもあり、今観ている自分の価値観の正否や善悪の判断をひたすら問いかけてくる内容。
もちろん正解なんてない。

ともすればB級スリラーに成り下がりそうな展開を、これだけ重く、これだけ真正面から描き、かつ映画としてのエンターテインメントさも見せた作品としての質は素晴らしいと感じました。
監督はミシェルフランコ、それ以外の方はまったくわからないです…。

一番恐ろしいなと思ったのが、この出来事の明確な主導者が描かれていない点。
誰が発端で、誰が発起して、誰が実行したか。
集団心理の作用としか思えない偶発性によって、社会が壊れていく様をただスクリーンで眺めながら、「これは映画なんだよね…?」とメタ的な、観客として"何もできなさ"を噛みしめながら進んでいく物語。
その裏では、今もどこかの国で起こっている現実だと薄ら知りながら。

非常に重く突き刺さる作品だと思います。
「こんなことあり得るの?笑」と、荒唐無稽に感じれば感じるほど、逆説的に「日本に生まれて良かった」と感じました、
緑・白・赤という、メキシコ国旗を彷彿とさせる色使いも鮮烈です。
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