カポERROR

ニューオーダーのカポERRORのレビュー・感想・評価

ニューオーダー(2020年製作の映画)
3.8
本作、確かに、評判通り胸糞でカオスで救いがなかったのだが…いや、だがしかし、これがなかなかどうして、画力(えぢから)があってスタイリッシュで、終始見入ってしまう不思議な魅力のある作品だった。
私が予想していたよりも遥かにゴア描写が少なく、86分という手頃な尺も相まって、全編ストレスなく鑑賞できたのも大きい。
あと、つくづく思ったのは、やはり映画は下馬評でハードルを上げ過ぎないこと…これに尽きるということだ。
本作のFilmarksスコアがもし4.0ptだったなら、恐らく私のスコアはここまで伸びなかっただろう。
我ながらいい加減な採点で惚れ惚れする。

以前『リメンバー・ミー』のレビューでも触れたのだが、私は30年前にメキシコを旅している。
その経験則で言わせてもらえば、本作の示すメキシコの治安や民度は、はっきり言って滅茶苦茶リアルで再現度が高い。
あの旅で、私と友人はメキシコシティの空港に降り立ち、手荷物を受け取ったその瞬間、見知らぬ男にバッグを引っ張られ、カタコトの英語で「ついてこい」と言われ連行されたのであった。
恐る恐る空港ロビーを横切り男の後をついて行くと、その先の表に乗合タクシーが待ち受けているではないか。
こっちもカタコトの英語で「む、迎えが来るから結構です」と伝えたものの、無理やり後部座席に押し込まれ(セダンの後部座席に4人座らされた)、そのまま有無をも言わさずに出発進行。
折しも、その1週間前、同国オアハカに向かうバスの車中で、日本人女子大生が拳銃で撃たれ死亡するというショッキングな事件があったばかり。
私と友人は完全に半べそ状態である。
やがて行く手に警察の検問が見えた。
私達は「助けて!」と言わんばかりに身を乗り出したのだが、立っていた警察官はただ無言で運転手に手のひらを差し出しただけ。
運転手は手早く旧ペソ紙幣を警官の手のひらに押し付けると、車はそのままスムーズに検問を抜けていった。
そう、メキシコで最も信用しちゃけない存在…それは警察官なのだ。
無法地帯メキシコシティへようこそ!
私と友人が絶望でうっすら死を覚悟し、パンツがちょっぴり湿ったその時、タクシーはメキシコシティのホテル街に到着したのだった。
タクシーを下ろされる(=身柄を解放される)のと引き換えに、当時のレートは忘れたが、日本円で9千円近くぼったくられたことは一生忘れない。
その日は、あと二人の友人が合流する夜半まで、恐怖でホテルの部屋から一歩も外に出られなかった。
その時心に誓ったのだ。
「どんなに金を積まれても、メキシコシティにだけは二度と行くまい。」
親愛なるフォロワーさんたちの中にメキシコの方がいたら許してね。
蒸しタコスは美味しかったよ…

…超下痢したけど༼;´༎ຶ ۝ ༎ຶ༽

本作を観て真っ先にこう思った。
もしも、過去へのタイムトラベルが可能ならば、今から30年前に戻って「本場のルチャリブレ(プロレス)が観たい!」などと安直な理由でメキシコ旅行を決めた当時の脳天気な自分の目ん玉をかっぽじって、この『ニューオーダー』を強制視聴させてやりたい。
そして、”軍に拉致られた男の一人が、ケツ穴にビリビリ棒突っ込まれるシーン”を30回程リピートし見せつけた上で、「¿Tú también quieres ser violada por este palo?(お前もこの棒に犯されたいか?)」と若かりし自分の耳元で囁いて、己の浅はかさを知らしめてやるのだ。
へ?
もはやメキシコの軍人よりサイコパス?
何とでも言うがいい。
あの時、私は濡れたパンツと自尊心をあの国に捨ててきたのだ。
Adiós!

賛否の分かれる胸糞映画の代表作、『ニューオーダー』。
未見で興味のある方は、あまりハードルを上げずにご覧頂きたい。
現在、U-NEXT、Hulu、DMM TV、WOWOWオンデマンド等で配信中。
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