SPNminaco

ワールド・トゥ・カム 彼女たちの夜明けのSPNminacoのレビュー・感想・評価

-
19世紀の農場を舞台に、日記形式の静かなモノローグで綴られる「台帳には記録されない」女たちの物語。
同性愛ゆえの受難ではなくて、2人は家父長制の不幸に囚われた(当時だけには限らない)すべての女性を代弁し、その中で愛する相手に出会えたことがむしろ一筋の希望として描かれている。引用した「リア王」のように、結婚や家庭という牢獄でも自由を夢見てサヴァイヴするための。その思いを託すのが詩や手紙や地図。そして書かれなかった日付にこそ残る、濃密で情熱的な記憶。カットはバッサリと無情に日々を切り刻むが、インクの文字は脈々とエンドロールまで続く。
また、男らしさの問題も含んでいる。妻同士は言葉や手仕事を通して時間と心を共有するが、夫同士は形式的にしか交流しない。女たちは家から解放されようとするが、男たちは役割や労働に縛りつけ自らも縛られてる。アビゲイルの夫ダイアーは感情を表に出さないので察してやらなきゃないし、タリーの夫フィニーは神の言葉を借りた異常な支配者。敢えてケイシー・アフレックもクリストファー・アボットもマッチョな見た目ではなく、暴力描写がないだけに内面的な閉塞感が濃い。
黒髪アビゲイルと赤毛タリーは、時代が違えば『テルマ&ルイーズ』だ。並んで絵になるキャサリン・ウォーターストンとヴァネッサ・カービー、特に背の高いウォーターストンはジーナ・ディヴィスを意識してるのでは(タリーのために少し身を屈めるアビゲイルが良い)。だからこそ悲劇だけど希望でもあるのだ。映画は展開とは裏腹に、雪に覆われ荒涼とした冬景色から夏を迎えるまで。来るべき世界へと。
SPNminaco

SPNminaco