無名のひと

コール・ミーの無名のひとのネタバレレビュー・内容・結末

コール・ミー(2009年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

小説家を目指すデイビーは、弟ショーンと共に自費出版の小説の朗読販売ツアーをしていた。
そんなある日に泊まったモーテルで、ショーンが不在の折りに電話が掛かってきた。
電話の主は色っぽい声をしたニコールと名乗る女性で、デイビーは彼女に言われるがままにテレフォンセックスをしてしまう。
ニコールに電話番号を教えたデイビーは、その後も度々テレフォンセックスを続けていく。
時にテレフォンセックスをせずに様々な話をするようになったふたり。
いつしかデイビーはニコールに惹かれ、彼女と会ってみたい気持ちを募らせる。
今まで3人としか交際した経験のないデイビー。
恋人の要求を叶えられない(セックスができない?)彼は、元恋人とよりを戻そうとキスをするが、やはり彼女に応えられず傷つけてしまう。
ニコールといよいよ会えることになったデイビーだが、そこに現れたのはアーロンという男性だった。
デイビーは、変声器で声を変えていたアーロンと電話でやり取りをしていたのだ。
ショックを受けるデイビー。
アーロンはこれまでもデイビーにしていたように何人もとテレフォンセックスを繰り返していた。
デイビーとしている時に他の誰かと同時進行はしていなかったとアーロンは言う。
デイビー同様相手に会ったこともあるし、実際セックスをしたこともある。
腹を立てて帰ることもなく、アーロンの話を聞くデイビー。
耐えきれなくなってトイレに立つデイビーに、深く傷つけてしまった罪悪感でアーロンもまた涙する。
ふたりはハグをして別れる。
車に乗る直前、一瞬だけ視線を交わして車に乗り込み、ふたりの関係に終止符が打たれた。



「テレフォンセックスにのめり込んだ男の行く末を描くエロティックドラマ」と銘打たれた今作。
嘘じゃない、嘘じゃないけど、想像を大きく外れた人間ドラマだった。
エロティックと言っても、ニコールのセクシーな声にデイビーが一人で致すシーンはあるものの、それだけだ。
最初の電話の時、予定外だったからにせよ脱ぎたての靴下で拭くのは頂けない。
ひとりで致していたのは、弟が部屋に入った時に臭いでばれそうなものだけど。
デイビーは会話が下手な不器用な男。
電話でちょっと話を持ったりする等身大な一面も描かれていて好感が持てる。
でも、自分がテレフォンセックスにははまっていることを弟にばらされてなお、弟の秘密を守る誠実さがある。
ラストの描写でも、本当に心の優しい男だと分かる。
オチは想像できたけれど、腹を立てるでも笑い話になるでもなく、あまりにも切ない。
デイビー同様、レストランには恐らく顔も知らない誰かと待ち合わせして待ちぼうけている女性がいる。
最後に彼女にひとこと言葉をかけるラストを想像しなくもなかったけれど、このラストで良かったと思っている。
デイビーは、純粋にニコールの人柄に惹かれていた。
もちろん、こんな女性だったらと妄想することはあって、小説の表紙の女性をニコールに重ね合わせてひとりで致してもいた。
異性愛者のデイビーは、内面に惹かれていてもアーロンと恋愛するのは無理だっただろうし、裏切られた思いもアーロンを抱いた他の男と同じになりたくない思いもあったのかもしれない。
最後に、言葉にできない思いを込めてハグをしたデイビーの背に、なかなか手を回せないアーロンが切ない。
こんな形で始まらなかったら…それでは恋は生まれなかっただろうから、叶うはずもなく失恋するしか道のない恋だった。
アーロンも、デイビーと会うことは関係を終わらせる可能性のあることだった。
ずっと会うことを渋っていたけど、デイビーの誠実さに応えたい、もう嘘をついていたくないという思いがあったのでは。
アーロンにとってもデイビーはきっと大切な存在だったはず。
余韻にしばらくなにも考えられなかった。
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