塔の上のカバンツェル

アンノウン・バトル 独ソ・ルジェフ東部戦線の塔の上のカバンツェルのレビュー・感想・評価

3.5
全般的にはロシア愛国映画。
ただ、印象的なシーンもチラホラある興味深い作品でもあったかなと。

本作ではルジュフ突出部の戦いが、スターリングラードの戦いに影響を与え、ドイツに致命的な打撃を与えたとするんだけど、ロシア国内だとそういう評価なのかーとちょっと新鮮。

ルジュフの戦いの個人的な認識としては、モスクワの戦いで味を占めたスターリンと指導部は、ドイツ軍への反撃を企図して、赤軍の尻を蹴って大反攻に出るんだけど、ドイツ軍陣地が硬すぎて惨敗、結構な損害を受けてたんじゃないかと。

そもそもこの期間の戦いは、ソ連側資料も少なく、比して日本語文献もそこまで揃ってない。
ドイツ軍が発動するブラウ作戦が、ルジュフ戦後に戦力を整える時間をドイツとソ連に与えたと言う意味では、補助的な遠因を与えた程度だったというレベルだったので…個人的には今後ロシア国内でも文献増えてくのかなぁ…と期待。



で、本作と言えば冒頭から激しい白兵戦が展開され、戦闘シーンは流石のロシアクオリティ。
火薬量も申し分ないです。

何というか、現場の苦悩みたいなものに焦点を当てた映画だったな。

出張ってくるNKVDとか、戦場でアクシデントでフレンドリーファイアを喰らうとか、本部から援軍が延々と送られてこないとか…現場の混乱と疲労が伝わってくる。

特にNKVDの嫌な奴っぷりは、必見。
政治将校がビラを拾う件とかはブラックユーモアとも。
所々で、皮肉めいた場面があるので興味深い。

ただ、全般的には愛国心を誘うような導線になってるので、その辺はロシア向けなので当然かなー
ソ連人なんか知るか、ロシア人だから戦う!の会話とか、ソ連邦の文脈とはちょい違うな〜だし、キリスト教の演出がやたら多いのもソ連とは異質ではあるかなと。
照明弾がユダの壁画を照らすとことか、燃える十字架がグワングワン映るとか。


本作の兵士達の泥臭さは良かったです。
特にキリスト教徒の古参兵の爺さんが良い味を出してるし、NKVDや政治将校も人間として描かれるので、彼等も人間だよ!ってロシア人が言いたいのもそりゃ理解。

あと、本部の中佐が援軍を送ってくれないのは最後に説明はあるものの、突出部に下手に人員を送って損耗したくない+後退させると退却主義で裁かれるっていうのもまぁあるんじゃねとも。

この辺の赤軍の指揮系統の硬直っぷりと未熟さは、大戦を通して大変な犠牲を払って改善していくわけだけど、
その大変な犠牲にこのルジュフの戦いも含まれるので、今作も悲壮感が満ちた一本だった。