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水俣曼荼羅のyoko45のレビュー・感想・評価

水俣曼荼羅(2020年製作の映画)
4.8
 いかに自身の公害問題についての認識が表面的であるかを思い知らされました。患者認定をめぐる裁判が中心だと想像していましたが、そんな単純な内容ではありませんでした。
 水俣病は脳の中枢が侵されていることを医学的に証明しようと奮闘する医師の姿、裁判の取り下げを条件に未認定患者への一時金を受け入れる人々、あくまでも国と熊本県の責任を問うため裁判で闘い続ける人々、そして支援者の方々。
 撮影に15年、編集に5年かかったそうです。水俣病公式確認から65年・・なぜ解決しないでここまで来てしまったのだろう。この「何故」を大変考えさせられます。
 水俣で暮らす人々より前にネコや鳥たちに症状が現れ、魚は浮き、やがていなくなる。目の前の自然が教えてくれていたのに何故水銀の垂れ流しを止められなかったのだろう。医学的、科学的に原因が特定できなかったから?経済優先だったから?何故裁判で勝訴しても認定は進まず苦しみ続ければならないのか、国は熊本県がと言い、熊本県は国がと言う。当初は分からないことが多かったのは仕方がないにしても、そうなら認定基準や認定審査会の運用は何回でも見直せばいいと思う。
 いまは一見穏やかに見える不知火海、きれいに整備された埋立地。でも埋立地公園の地下には多くの魚が眠り水銀は消えていない。このままだと水俣で生き闘い続ける人々の笑顔と喜びが消えてしまいそうで恐ろしい。もしかしたら苦しみ戦い続けるのは自身だったかもしれない。
 奥は深く底を探りたくても手は届かない、目の前は薄暗く核心に触れることはできない。やはり祈ることはできても他人の痛み苦しみを感じ取り、本当の意味で救うことは難しい・・より良い社会となってほしい、そう感じる貴重な作品でした。
  
(メモHPより)
1部「病像論を糾す」では国が患者認定制度の基準が「末梢神経節」から「脳の中枢神経節」に変更される経緯でそれを訴えた熊大医学部浴野教授の孤立無援な立場に密着。
2部「時の堆積」では小児性水俣病患者・生駒さん夫婦の差別を乗り越える姿と90歳で裁判闘争にかける川上さんを追う。
3部「悶え神」では胎児性水俣病患者・坂本しのぶさんのかなわぬ恋物語と故石牟礼道子さんらの言葉を聞く。
 
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