けーすけ

空に住むのけーすけのレビュー・感想・評価

空に住む(2020年製作の映画)
3.4
2020/10/20(火) 渋谷・ユーロライブでの試写会にて鑑賞。F-7。

小早川直実(多部未華子)は都心から少し離れた小さな出版社で働いている。両親が事故で突然に亡くなり、未だ悲しみを受け止められない空虚な気持ちを抱えた直実は、叔父の計らいで、叔父夫妻が投資用として保有していたタワーマンションの一室に愛猫のハルとともに住まわせてもらう事になった。
ある日、同じマンションに住む有名俳優の時戸森則(岩田剛典)と偶然に出会い、いつしか逢瀬を重ねるようになるのだが・・・








120分弱、全編にわたって多部未華子!ひたすらに多部未華子!!そして時々がんちゃん(岩田剛典)な映画でした。
多部未華子と岩田剛典が好きな人は観て損は無いでしょう。

あと、黒猫のハルが超かわいいです。でも、途中で悲しい事もあるので猫や動物好きな方はご注意を…(虐待ではないです)。


以下、核心ネタバレはないですが、本編内容にはそれなりに触れているので、未見で気にされる方は鑑賞後にぜひ読んでいただければと思います。







てっきり多部未華子と岩田剛典の恋愛ものかと思っていたのですが、恋愛要素は薄いです。
内容はかなり淡々としており、大きな起伏も無く事件はこれといって起きません(まあ、同じマンションの住民として岩田剛典と遭遇し、彼が部屋に上がってきたら大事件ですが笑)。

多部未華子演じる直実の内省的な悩みや、彼女に関わる人間たち、特に女性を切り取った印象でした。


直実の叔父の妻である明日子(美村里江)は元CAで美貌もあり、旦那とも仲が良く専業主婦として何不自由なく過ごしてはいるが、やるせない寂しさを抱えており、やはり子供は欲しいとも思い悩む。

直実が勤める出版社の後輩である愛子(岸井ゆきの)は妊娠八ヶ月。だが、妊娠期間も周囲にウソをつき、実はお腹の子についても大きな秘密を抱えているというぶっ飛び妊婦。

直実は両親を失った悲しみを抱えたまま、時戸と恋愛ともいえない時間を重ね、「このままではいけない」とわかってはいつつも抜け出せず苦しみ悩む様子が描かれていました。


三者ともに、色んな悩みを抱えたりで生きづらい事もあるよね、という表現だとは思うのですが、どことなく男性目線での描写なような気もしてしまったのが少し残念に感じたところ。



『空に住む』というタイトルは、超高層マンションで都心を見下ろす生活を指していると思いますが、劇中で階段の描写が幾度かあったり、直実の性格を「雲のよう」と例える話がある事から、直実の落ち着かない心や浮遊したままの感情を高さにて表現しているのかなとも感じました。
終盤の会話に「地に足を着けて生きる」というワードが出てくるのですが、そのあたり含めて“どことなく自身を俯瞰している直実”も重ねて描かれているのかな、とも思った次第。

そのように、全体的にふわふわとした雰囲気の不思議な作りでもあり、鑑賞後の舞台挨拶で監督も仰ってたのですが、ちょっとした出来事が次に繋がるような、あえて結末以降は観客に委ねる作りにしたとの事でした。



因みに、タワマンのある場所は渋谷の設定のようで、鑑賞中に「新宿がこの距離で見える建物、一体どこなんだ?」とずっと思っていたのですが、実はマンションの部屋の中はセットで、窓の外は全てCGとの事。全てブルーバックで撮影したそうです。何気に注目ポイント。





主演の多部未華子、おそらくこの役はぴったりだったのではないかなと思える自然体。なんとなく素の部分が出ているような気もしたり。多部ちゃんの作るオムライスが食べたくなる事請け合い。(因みに大森南朋が出てきた時は個人的にドラマを思い出して「ナギサさん…!」となってしまった笑)

岩田剛典はなんとも不思議な役どころ。一見爽やかなんだけど、不思議発言&不思議キャラで結構なクズ男というのがなんとも…。でも、彼に「やめる?」「やめたくない?」と迫られたら男の僕でも「やめたくないっす!」って答えてしまうわ!
とはいえ、いきなりオムライスを求めるのは怖いし、花まで食っちゃうのはヤバすぎて最高なのでヤバいです(語彙力崩壊の誉め言葉。笑)。

岸井ゆきのは「ここ数年で存在感がさらに増してるなあ」と感じたのですが、本作での撮影は2年程前だったとの事で、“最新版・岸井ゆきの”が観たいと思いました。


スポット出演ではありますが、柄本 明や永瀬正敏というベテラン陣の存在感もツボを押さえたスパイスとなっており、それぞれ重要な場面と役割を担っているのでぜひ注目ください。

あと、個人的に「なんだか味わい深いなあ…」と思ったのが出版社の編集長である柏木を演じた髙橋洋。佇まいと声がめちゃ良かったです。




主人公が住む場所と抱える気持ちの浮遊感がどことなく「色々と虚構なんじゃないか」とも感じさせられる不思議な後味を残す映画でございました。


[2020-160]
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