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ザ・フラッシュのnoteのネタバレレビュー・内容・結末

ザ・フラッシュ(2023年製作の映画)
3.6

このレビューはネタバレを含みます

地上最速のヒーロー、フラッシュことバリー・アレンは偶然見つけた時間を遡る能力を使い、過去に母親が死んだ事件の前に遡り、母の死を回避する事に成功する。だが自身のいた時代に戻る途中で、何者かによって2013年に弾き出される。そこには死を回避した母と父、環境が変わったことで性格が異なる18歳の自分がいた…。

DCコミックス原作のヒーローが集結した「ジャスティス・リーグ」で本格的にスクリーンに登場したフラッシュを主人公に描くヒーローアクション「コメディ」の佳作。
遂にDCコミックスユニバースもマルチバース(パラレルワールド)に手を出してしまった。
本作はフラッシュ版の「スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム」である。

足だけでなく頭の回転も速いためか、慌てん坊でせっかちの主人公バリーのキャラクターは非常にコミカル。
しかし、そのせいで高機能自閉症か変人だと思われて、恋人はおろか友達もいない孤独な暮らし。
オマケに父と買い物中に母を何者かに殺され、父は冤罪で刑務所にいる。
特殊能力と悲しい生い立ちも相まって、フラッシュはスパイダーマンとの共通点が多いキャラクターだ。
偶然時間を遡った彼は、母さえ死ななければ、幸せな人生が送れたはずと歴史を変える。

歴史を変えてしまったバリーは18歳の幸せな暮らしのバリーに出会ってしまう。
しかし、雷に当たって能力を得ないと、未来から自分が来た理由が無くなり、自分が消失すると焦る。
能力を得る時間と場所に若いバリーを連れていくが、共に雷に当たったことで、今度は自身の能力を失ってしまう。
どうしようとバリーが焦る一方で能力に目覚めた若いバリーは調子に乗って能力を試し、騒動を巻き起こす。

自分が失敗で能力を失った上に、自分に翻弄されるとは…。
序盤はドタバタコメディのノリだ。

さらに、その時代においても「マン・オブ・スティール」に登場したスーパーマンの宿敵ゾッド将軍が現れる。
本来の歴史ではスーパーマンによって倒されるはずだが、なぜかスーパーマンは現れない。
調べてもワンダーウーマンとアクアマンは所在不明で、サイボーグは機械化以前の身体。
唯一バットマンが存在していると知ったバリーは若い頃の自分と共に、バットマンことブルース・ウェインに会うため、ウェイン邸へ赴くが…なんと彼はバリーが知るウェインとは別人だった。

過去のバットマンにティム・バートン監督作「バットマン」で初代バットマンを演じたマイケル・キートンが登場。
子どもの頃に見た興奮が蘇り、もう、彼が出るだけで映画ファンとしては胸が熱くなる。

その過去のバットマンがパスタを使って説くパラレルワールドの理論が分かりやすい。
過去を改変するつもりが、時も次元もパスタのようにグチャグチャに混ざり合ったマルチバースにフラッシュは迷い込み、違う次元世界の歴史に干渉してしまっているのだ。
果たして、彼は元の世界に戻れるのか?
ゾッド将軍が現れたがスーパーマンのいない世界の運命は?
過去にゾッド将軍を前に何も出来なかったフラッシュはトラウマを克服できるのか?

ゾッド将軍から世界を救う為…というよりも、母の生きている世界を助けたいと奮起して戦う覚悟を決めるバリー。
しかし、今のバリーは知識はあっても、能力がない只の人間。
「この状況どうするの?」という連発に、いちいち狼狽えて焦るバリーが笑える。

別次元世界のフラッシュと力を合わせようとする姿、師弟とも言えるバットマンとの関係は、「スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム」での別次元のスパイダーマンとの共闘と、MARVELスパイダーマン3部作が描いたアイアンマンとスパイダーマンの関係そのもの。
残念ながら設定が近く、既視感は強い。

しかし、マルチバースでの物語なので、ここでちょっとしたサプライズ。
戦う手札を揃えようとバリーたちが探しあてたのは、何とスーパーマンではなく、従姉妹のスーパーガール。
ボーイッシュな黒髪ショートカットに、健康的な身体に張り付くスーツがアンビバレントな色気を発していて、とても新鮮。
可愛らしいが、やたらと強いツンデレの効いたスーパー(マニッシュ)ガールである。
男女問わず好きになってしまうタイプだ。

彼女の助けで再度雷に打たれたバリーは能力を取り戻し、クライマックスはWフラッシュとバットマン、スーパーガールとゾッド将軍ら異星人軍団とのバトルである。
「マン・オブ・スティール」のように大都会の破壊描写が無いのは残念だが、フラッシュが走り回れる砂漠での戦い。

現在パートでのベン・アフレック演じるバットマンのオープニングの活躍が凄いが、キートン・バットマンも懐かしい初期デザインのバットウィングを駆り、負けず劣らず大活躍。

特に普通の人間であるバットマンがガジェットと爆弾を駆使して異星人と戦うシーンは、「ジャスティス・リーグ」で完全に足手まといだったバットマンとは一線を画す出来映え。
今後のユニバースでの活躍も期待大だ。

しかし、バットマンとスーパーガールが破れ、フラッシュは再び時を戻そうとするが何度戻っても彼らの死を避けられぬ絶対不可避の因果にハマる。
それでも諦めない若いバリーがずっと時を戻そうと時空の間に留まった結果が、冒頭でバリーを弾き出した張本人だったと分かる。
時を戻してはいけないと悟ったバリーはたった1つだけ過去を変えて、父の無実を証明する。

バットマンが口にした「過去があるから今の自分がある」という言葉通り、母のいない世界を受け入れたバリーの決意は感動的だ。
ほろ苦いハッピーエンドか?というラストで、現れたブルース・ウェインはベン・アフレックではなく、まさかのジョージ・クルーニー。
彼もかつてのバットマン役者だ。
「あれ?元に戻ったんじゃないのか!」というサプライズもまた笑える。

映画の構成としては良く出来ている。
最低限必要な情報は劇中でキチンと説明されている。
バリー・アレンの生い立ちやキャラクター、フラッシュの能力やその副作用、ジャスティス・リーグの他のメンバーと能力もさりげなく紹介されている。
多分、過去作を見ずにいきなり本作だけ見ても話についていけるだろう。

しかし、過去の関連作を見ていればキートンやクルーニーのバットマンだけでなく、クリストファー・リーブにのスーパーマンにヘレン・スレイターのスーパーガールと懐かしい顔触れにテンションが上がることは必至。

過去作のキャラクターとスーパーガールは客寄せパンダと頼りない若者フラッシュのヘルプの役割を充分に果たしている。

確かにフラッシュが主人公ではあるのだが、どうしても他のキャラクターが目立つのが個人的には残念だ。
初のフラッシュの映画化なのだから、スーパーマンやワンダーウーマン、アクアマンのように彼1人のストーリーでじっくりと紹介するべきだったのではなかっただろうか?
本作の鑑賞後の印象はフラッシュがメインのジャスティス・リーグのスピンオフである。

過去作のエピソードやキャラクターの助けを借りすぎている印象は否めない。
アメリカ人にはお馴染みのキャラクターかもしれないが、他のヒーローが出張らないフラッシュの誕生と活躍を描く「フラッシュ・ビギンズ」でも良かったのでは?

フラッシュは「足が速いだけ」「未熟な若者」というのが親近感が湧く。
頭の良いスパイダーマン=ピーター・パーカーと違うのは、「無鉄砲」で「ドジ」。
次作は前半のような楽しいコメディ路線を貫いて欲しいものである。
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