おなべ

ベイビー・ブローカーのおなべのレビュー・感想・評価

ベイビー・ブローカー(2022年製作の映画)
3.7
◉「捨てるなら産むな」…そんな二者択一の単純な話じゃない。そこには養子の制度や法律、家庭内事情やパートナー事情、社会保障に至るまで、複雑な問題が絡み合っている事を認識しなくてはいけない。

◉赤ちゃんポストに預けられた赤子のウソン。ブローカーのサンヒョンとドンスは、ウソンを連れ去り金を稼ごうと企むも、しっかり警察にマークされていた。警察の存在に気付かないまま、2人はウソンを売りに出す事に…。

◉第75回カンヌ国際映画祭にて《ソン・ガンホ》が[最優秀男優賞]を獲得。

◉脚本・監督・編集を務めた《是枝裕和》監督は、2016年に韓国の赤ちゃんポストの問題を知り、韓国で現地取材を行ったそう。赤ちゃんポストに預けられる率が増加している問題は日本でも問題視されており、韓国は養子制度の改正により、さらに深刻な問題に発展しているとの事。

◉《ソン・ガンホ》《カン・ドンウォン》《ペ・ドゥナ》ら主要メンバーは安定の好演。また、《是枝裕和》監督には珍しい扇状的な演出が散見され、韓国映画色に寄せていた印象を受けた。

◉本作の見どころは、赤ちゃんポストに赤子を捨てた母親の心の葛藤と変化。赤ちゃんを一度捨てると決めた母親が、赤ちゃんを巡る諸問題に触れながら、自分なりの“答え”を模索してゆく。個人的には、その辺りが本作のパンチラインかなと。

◉現在、アメリカでは中絶を巡って激しい議論が巻き起こっている。“中絶は女性の権利”と認められた「ロー対ウェイド裁判」の判決が覆る結果に。これにより何百万もの女性が中絶手術を受けられなくなるという。プロ・ライフ(=中絶反対派)と、プロ・チョイス(=中絶擁護派)との間で議論は激化し、アメリカ全土を揺るがしている。











【以下ネタバレ含む】












◉「産まれてくる子を殺すのが残酷か」「産まれてきた子を捨てるのが残酷か」。一度、生を授かった赤ちゃんにとって、何が最良の選択になるか。正直、本作を観た後でも答えが出てない自分がいる。ただ、望まれずに産まれた子など、いるはずがない事だけは分かる。産まれてくる罪などもってのほか。全ての人生に意味があり、誰かに求められて生を授かるもの。産んだ子に対する父親・母親の責任と、それを支え支援する社会制度の、どちらかではなくてどちらも必要。あとは、妊娠中絶に関して。個人的には「中絶は正しい!」「中絶は間違っている!」とかじゃなくて、それは本人の選択(価値観)次第だから、それに対する選択肢を増やしてあげるのが政府や社会の役目だと思う。別の第三者や社会が決める事じゃない。

◉サンヒョンらとのブローカー旅を通じて、母親の一面を垣間見せたソヨンの表情が印象的。車の洗浄でびしょ濡れになったり、束の間のささやかな生活を送る中で、時折り見せる母親の顔に惹きつけられた。ウソンを養子に預けると決心したはずなのに、その横顔はどこか寂しげ。血は繋がってなくても、幸せな家庭像を感じていたのかもしれないと思うと、この束の間のひと時がずっと続けばいいのにと思ってしまった。
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