Hiroki

ベイビー・ブローカーのHirokiのレビュー・感想・評価

ベイビー・ブローカー(2022年製作の映画)
4.0
7月になってここからまたやも観たい映画ラッシュが続くので、まずは6月に観た作品をどんどんいきたいと思います!

今作は2022カンヌの最優秀男優賞(ソン・ガンホ)作品。
今年のカンヌコンペ初の日本上映作です。
今年のカンヌについて詳しくは下記より。

https://note.com/marry_e_n_t/n/n57c1141e1a35

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興行的には日本では2週目で4.4億円。
是枝作品だと前作のフランス製作『真実』の2億よりは良いですが、パルムドール作品『万引き家族』45億、審査員賞の『そして父になる』32億にはとても届かなそうな感じです。
ただこの作品は韓国製作。
地元韓国では公開より10日間で動員100万人突破で興収も11億円となかなか良い感じなのかなーと思います。(目安として2021年の韓国映画でいうと年間5位の『ハードヒット 発信制限』が動員96万人、興収9.4億くらいです。ちなみに年間1位は日本で7/1から公開された『モガディシュ』で動員361万人、興収35億くらいでした!)
評価的には賛否分かれているよーですが。

まずそもそも感じた事は是枝さんが普通に韓国で韓国のスタッフや役者を使って映画を撮ってる事の凄さ。(まーこれは前作の時からそーなんですけど...)
大概、映画監督って同じスタッフでやる事が多いじゃないですか。特に有名になると◯◯組みたいな。
例えば日本だと今年の上半期『余命10年』がスマッシュヒットした藤井道人監督なら撮影/今村圭佑&編集/古川達馬、もう少しで『ゴーストブック おばけずかん』が公開になる山崎貴監督なら音楽/佐藤直紀&撮影/柴崎幸三&編集/宮島竜治。
当然のごとく主要なスタッフは意思疎通が取れている同じ人と組んだ方が効率が良い。
海外の監督でもやはりそーいう人が多いように思います。
しかし是枝監督は編集は自分でやるにしても、その他のスタッフをあまり固定しない。
今回の撮影監督は『パラサイト』や『ただ悪より救いたまえ』のホン・ギョンピョ。
音楽監督が『パラサイト』やNetflixドラマ『イカゲーム』のチョン・ジェイル。
まー主演のソン・ガンホとパラサイト繋がりとはいえ是枝監督は一緒に仕事をした事があるわけではなく、言葉も満足に通じない中で、当然のように是枝裕和の世界観を作り上げている事に脱帽。
これはジャンルに限らず世界で活躍する人の素質なのかなーとか考えたり。

内容的には、んー難しい。(最近こればっかり言ってる気がする...)
主題である“血の繋がりこそが家族か?否か?”は前出の『そして父になる』や『万引き家族』から続いている是枝作品の縦軸とも言えるテーマ。
血の繋がりのないサンヒョン(ソン・ガンホ)、ドンス(カン・ドンウォン)、ソヨン(イ・ジウン)、ヘジン(イム・スンス)は物質的に満たされない下層の生活をしながらもソヨンの赤ちゃんの人身売買の旅路の中で少しずってお互いを認め、寄り添いあっていく。
しかし個人的には少しこのお互いが寄り添い合うようになるまでの心の動きの部分が弱い気がした。
ドンスとソヨンは良い。
雨上がりのシーンとか観覧車のシーンとか心に残るシーンがたくさんはあった。素晴らしかった。
でもそれ以外の人たちの冷え切った心が溶けていく部分が弱い。時間的に厳しかったのはわかるけど、あーいう形で4人の出会いから描くならそこは最重要だった気がする...

この間友人たちと是枝監督と濱口竜介監督の違いについて話していた中で興味深かった事が、濱口監督はどちらかと言うとシステム(撮影とか音楽とか編集とか)で映画を動かしていくけど、是枝監督は役者の演技(監督の演出)によって映画を動かしていくという意見。
やはりこの人の映画を観ていると役者を100%信頼しているんだろうなーって感じるんですよねー。
じっくりゆったりと見せるためにテンポが著しく悪くなるし、基本的に(非常にささやかではあるかもしれないが)希望の結末へと向かって進んでいくので、ここらへんが苦手な人はたしかにいると思うけども。
でもソヨン役のイ・ジウも言っていたけど役者が全力を出せる環境がそこにはあるんですよ。
だから本当にキャストが軒並み素晴らしい!

ソン・ガンホは言わずもがななんだけど、IUとして“国民の妹”と言われるイ・ジウンも映画の経験はあまりないと思うが難しい役を上手く演じてました。
途中、養護施設から勝手に付いてきてしまう自由な男の子役のイム・スンスも良い。撮影中は本人もこれまた自由すぎて大変だったみたいだけど...
しかししかしなんと言ってもベイビーブローカー御一行を追う刑事コンビのペ・ドゥナ&イ・ジュヨンがとにかく素晴らしい!
この2人序盤から出てくるたびにとにかく食べる、食べる、食べまくる!
ペ・ドゥナは“ながら女優”と言われていて、何かをしながらの演技が抜群に上手いと有名なので是枝さんはとにかく食べたり電話したり何かさせたかったらしいです。
この食べるシーンがね、フィクションとは思えないくらいガチ喰いなんですよね。全然綺麗に食べない。食べながら喋りまくってるし。
でも全体を通して(というかブローカー組のシークエンスが)テンポが悪くて、共すると「いやいやそんなわけないじゃん!いーから早く次進めよ!」と現実味が失われていきそうになる所を、この2人のシーンでしっかり軌道修正してくれている感じがしました。
別格の雰囲気漂わせるペ・ドゥナに一歩も引けを取らないイ・ジュヨン。これからも非常に楽しみな女優さんです。

という事で色々と問題はあれど、役者それぞれの素晴らしい演技にグイグイ引っ張られて結果としてはとても良い1つの作品として昇華されているなーと思います。
何よりやっぱり私は最後に希望を見せてくれる是枝作品が好き。
家族の形が揺らいでいるこの時代に、血の繋がりなんてなくても本当の意味で繋がっている事はきっとできるはずだよって、例え儚い夢物語だとしてもちゃんとここに残してくれる是枝監督が好き。

「産む前に中絶するのと、産んだ後に捨てるのはどちらが悪いの?」

是枝さんは2022年中に自身初のNetflixドラマシリーズを配信予定。
小山愛子の『舞妓さんちのまかない』が原作で是枝監督のオリジナルではなく原作がある作品は珍しい。
久しぶりの連続ドラマ。
これまた非常に楽しみです!

2022-53
Hiroki

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