LeeLung

ベイビー・ブローカーのLeeLungのネタバレレビュー・内容・結末

ベイビー・ブローカー(2022年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

景色がずっと日本の景色と重なった。
「ベイビーブローカー」という耳慣れない言葉にファンタジーを感じてしまうが、これはアンダーグラウンドの世界で実際に起こっていることでファンタジーではない。
それを韓国という異国が日本の景色と重なることで上手く表現されている。

刑事ふたりと口論した際にソヨンは
「産む前に殺した方が罪が軽いのかよ!」
と吐き捨てる。

ぐっと重力が重くなった気がした。
中絶と人殺し
中絶と子どもの虐待死
を順番に連想した。

中絶できる時期は法律で定められているが、それが命であるかどうかは個人の価値観によって変わる。
女性だけに背負わせていい問題ではない。

「ベイビーボックスなんてあるから責任のない母親が増えるんだ」
という主旨の台詞が度々登場する。

日本、韓国、そしてアメリカであってもベイビーボックスは母親を救っていると思う。母親の人生と子の人生を救っている。
ベイビーボックスがなければ、ソヨンのように追い詰められて孤独な母親は子どもを虐待する可能性もあるし、そもそも母と子それぞれの人生に、良い影響があるとは思えない。

ソヨンはサンヒョンやドンスと出会い、協力して子育てすることを知り、ウソンとの未来を想像できるようになる。

ドンスの出身の養護施設で
ソヨンが人生について「ずっと土砂降り」と言った際にドンスが「傘があったらいいんじゃない?」と言う。
この「傘」の発音は「usan」なんだよね。
偶然なのか意図的なのかわからないけど、ソヨンの息子「ウソン」と発音が似ていてドキドキしてしまった。ソヨンにとっての人生の傘がウソンなのかもしれない。

スジンは刑事としてキャリアを積み上げて行くだけの人生に、ベイビーブローカーを追うことで揺らぎが生じていく様子が、さり気なく且つ繊細に描かれていた。
最後に、ウソンを預かって育てている中で海で遊ぶシーンのスジンの笑顔には胸が詰まった。

対象的に、妻の拒絶と娘が妻に義理立てして距離を取る様を目の当たりにしたサンヒョンは、遂に、ウソンの実父の妻の手先となったチンピラで、可愛がっていた男を殺してしまう。それが、何よりも切ない。

未来を見ることができるようになった
ソヨン、ウソン、ドンス、スジン

現実に引き裂かれ、逃亡者となることを選んだ
サンヒョン

「良かったね」で終わらず、胸にズシリと重りを残していく。
やはり、ファンタジーではない。
LeeLung

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