Ricola

ベイビー・ブローカーのRicolaのレビュー・感想・評価

ベイビー・ブローカー(2022年製作の映画)
3.6
『万引き家族』のように、犯罪を通じて皮肉にも家族のような絆が生まれてくる。
それも無垢な存在である赤ちゃんを介して、それぞれが自分の人生を見つめ直していくのだ。


雨が演出としてかなり効いている。
冒頭のシーンで、激しく降りしきるなかで誰も傘をささない。
その後も雨はしとしとと降るときもあれば、ザーザー降るときもある。とにかく雨が降っていることが多い。
また、ソヨンが朝起きて窓を開けて雨だれに手をかざすシーンがある。
彼女は、「雨は過去を洗い流してくれる」と言うが、たしかに雨が降った後は彼らの関係がより強固なものになっている。

また雨ではないが、水という点で共通しているシーンがある。
洗車機に車を通している際に、ヘジンが窓を少し開けたせいで車内の皆がずぶ濡れになってしまうのだ。
ここで皆彼に怒ることはなく、むしろ楽しそうに笑い合う。ヘジンのいたずらが、この奇妙なチームの絆を強めたと言っても過言ではないだろう。
雨も洗車機と同様、彼らに結果的に恵みを与えてくれるのだ。

文字通り、赤ちゃんは次々といろいろな人の手に渡っていく。
それはこの「旅仲間」のなかではもちろんだが、「買い手」となる人たちも赤ちゃんを抱っこさせてほしいと願い出る。
買い手たちは赤ちゃんを手にすると、本音が溢れるようである。思惑であったり、心からの愛おしさであったり…。
赤ちゃんには人の心を少しでも開く力があるのかもしれない。

単に正義と悪という二項対立でもないし、人身売買の闇にもさまざまな人の人生の事情が絡み合っていることがよくわかる。
この作品はその人生にフォーカスが当たっており、この奇妙な家族が形成されていくさまとともに「ひと」が描かれていた。
Ricola

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