うえびん

ベイビー・ブローカーのうえびんのレビュー・感想・評価

ベイビー・ブローカー(2022年製作の映画)
4.3
親なき子たちの魂の再生

2022年 韓国 是枝裕和監督作品

登場人物の丁寧な人物造形、俳優陣の演技が素晴らしい。ソヨン(IU)と生まれたばかりの赤ちゃんのウソンを軸に、ブローカーのサンヒョン(ソン・ガンホ)とドンス(カン・ドンウォン)、三人の生い立ちが徐々に明らかになりながら展開してゆくストーリーは秀逸。

是枝監督らしく、説明的なセリフは殆どない。言葉に拠らない表情まで、繊細に演じきられている。特に、作中では殆ど触れられないスジン(ペ・ドゥナ)の生い立ち、それに拠るであろうソヨンたちに対する思いの揺れ動きの演技は最後まで見事だった。ヘジン(子役)の無邪気さも重いテーマを少し和ませるいいアクセントになっていた。

雨や風も人物の心情を映す鏡のようで印象的。前半は雨のシーンが多く、泣きたいのに泣けない心境を想像させる。赤ちゃん(ウソン)の無邪気な泣き声が、大人になった面々の複雑だったであろう幼少期を想像させて切なさを誘う。傘のメタファーもありがちだけど臭くはない。中盤は風に揺らぐモチーフが、心の揺れ、心境の変化の兆しを感じさせる。

印象に残った言葉がたくさんあるけど、ネタバレになるので割愛。

子どもを産むこと、産まずに堕ろすこと、産んで捨てること、他人の子を拾うこと、売り買いすること、譲り受けること、親子の血の繋がり、産みの親と育ての親…。一人の赤ちゃんの人生の始まりから、様々な問題が想起され思考の迷宮に誘い込まれる。これも是枝節だろうか。『三度目の殺人』の余韻が思い起こされる。

自分なんて産まれてこなきゃよかったのに…。

登場人物の誰もが何度も思ったであろう、その思い。ウソンも大きくなったら、そう思う時が来るだろう。その時には、「生まれてきてよかった、まぁ悪くはなかったかな」と思えるようになった周りの大人たちが支えになってくれることでしょう。そしてそこを乗り越えたウソンは将来、“産神おじさん”になれるでしょう。きっと。
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