デニロ

私たちの青春、台湾のデニロのレビュー・感想・評価

私たちの青春、台湾(2017年製作の映画)
4.0
沢木耕太郎のノンフィクションを読んでいると、対象に密着しつつ仕舞いは観察者沢木耕太郎の思いが滲み出てもはや私小説ではないかと思うことがある。本作の監督傅楡(フー・ユー)の姿にそれを感じる。尤も沢木耕太郎は意識的に行っているのだが、本作の作者はそれと気付かぬうちに陥穽に陥ってしまう。でも、それが青春というものだ。本作は、傅楡の「私の青春」と言うべき作品だ。

傅楡は、ふたりの大学生に興味を持ち彼らの活動をカメラにとらえる。ひとりは台湾の学生活動家。少しばかりチャラい雰囲気の陳為廷(チェン・ウェイティン)という活動家。幾度も立法院に突入を企て失敗を繰り返す。そんなことをしてもと、彼の姿を批判的に捉えていくのだが、ある日、彼は突入に成功してしまう。突入の理由は中華人民共和国との「サービス貿易協定」という代物。彼の国に呑み込まれ自由と民主主義がなくなってしまうのでは、という危機感が台湾人を襲うのだ。突入の場にいなかった傅楡はそれを悔やみ、その後、彼と行動を共にする。もうひとりは、中華人民共和国からの留学生蔡博芸(ツァイ・ボーイー)という大学生。彼女のブログは自由と民主主義に根差したもので、台湾に根付いている自由と民主主義の在り方を発信している。本国でもそれは受け入れられ書籍を発刊したりする才人。運動を通じて陳為廷と蔡博芸は巡り合う。そのふたりに傅楡は希望を持つのだ。彼らなら世界を変えてくれる。

誰しも目的をもって生きていこうとするのだがそれは地平線に向かって歩いていくようなもので、実に虚しくなるものなのだが、でもね、と思う。結果ばかりを求めるのではなく目的そのものを探求していくことが尊いのではないか。

そしてこのふたりの若者の目的がどんな始末になったのか、若い彼らの物語はまだまだ続くと思うのだが、その彼らふたつの途中経過のロクでもない挫折を踏まえ傅楡は自分の思いを知ることになるのです。
デニロ

デニロ