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ヒトラーに盗られたうさぎのFREDDYのネタバレレビュー・内容・結末

ヒトラーに盗られたうさぎ(2019年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

絵本作家ジュディス・カーの自伝的小説「ヒトラーにぬすまれたももいろうさぎ」をカロリーヌ・リンクが監督が映画化した本作は、1933年の2月。両親と兄、そしてお手伝いのハインピーと平和な日常を過ごしていたところ、父アルトゥアと昨晩に深刻な表情で話し込んでいた母ドロテアから翌朝に、10日後に迫った選挙でヒトラーが勝利を収めれば反対者への弾圧が始まるという忠告を受けたことや、ヒトラーに対して批判的な発言をメディアを通じて発信していた演劇批評家でユダヤ人の父が忠告に従い海外へ亡命したこと、そして父と合流すべくハインピーを残し家族3人でスイスに亡命することを突然告げられ、生まれ育った大好きな家とハインピーとの別れを惜しみながら故郷ベルリンを後にした9歳の少女アンナ・ケンパーを主人公に、ヒトラー台頭による恐怖政治から逃れるために強いられた過酷な亡命生活の様子や、様々な困難に見舞われながらも逞しく生きて行こうと奮闘する家族の姿が描かれた作品となっているのだが、率直に言ってとても素敵な作品でした。予備知識もなしにタイトルに惹かれて本作を視聴したが、物語の背景に"ヒトラー台頭による恐怖政治"というものがありながらも9歳の少女アンナを軸に紡がれる家族ドラマは心温まるものとなっていましたし、故郷のベルリンを離れてスイスやフランス、イギリスへと渡ったアンナたちがその国々で異なる習慣や言葉の壁、そして貧困に喘ぎながらも生きる希望を見出していく様には前向きな気持ちにさせられた。戦争や恐怖政治というものを映し出さず家族ドラマに焦点を当てたことや、リーヴァ・クリマロフスキが演じるアンナのキャラクター性、そしてまるで児童文学や絵本を読んでいるかのような気持ちにさせられる作品の優しい雰囲気も好印象で、『帰ってきたヒトラー』でヒトラー役を演じたオリヴァー・マスッチがユダヤ人で辛口演劇批評家の父を演じている点もまたユニークに感じましたし、これが実話であることや、恐怖政治から逃れ亡命生活を送っていた家族らの視点から時代を見つめることができる面白さもあり、本作は観るべき一作なのではないでしょうかね。大きな展開こそはないですし戦争映画として視聴してしまうと求めるものは得られないだろうが、個人的には好きな作品。良作でした。
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