えるどら

白爪草のえるどらのレビュー・感想・評価

白爪草(2020年製作の映画)
3.8
新しい試みとしても、いちサスペンス映画としても見る価値のある良作。
機会があれば、敬遠せずぜひ見てほしい一作。

(ここではVirtual Youtuber及び、Vtuberに関する細かい説明は行わない。定義とかいろいろ面倒くさいので。また表記はVtuberで統一する。)

ワンシチュエーションサスペンス、二転三転する展開で飽きさせず観客の心をぐるぐるさせる脚本が上手い。
3Dアバターの長所を活かした良い作品。

個人的にVtuber、特に電脳少女シロさんが所属する事務所のVtuberたちを応援していることもあり本作はかなり期待していた。
同時に、こういった作品はえてして既存のファン向けであることも多いため、映画としての完成度に不安があったのも事実だ。
しかし自分が楽しかったのは勿論ながら、Vtuberの知らない人を含めたくさんの人の意見が聞きたい素晴らしい作品だと感じた。
気になった方はぜひ一度見てみることをおすすめしたい。流行りものに触れるのも良いもんですよって。

本作は主演はVtuber・電脳少女シロが務める。
3Dアニメとの違いは、Vtuberの3Dモデルの身体が役を演じるという点だ。
メタ的な話をすれば「役を演じる電脳少女シロ」を「電脳少女シロを演じる声優」が演じるという構造になっている。
Vtuberについて詳しい方であれば3Dアニメーション作品と本作の微妙なニュアンスの違いみたいなものが理解できると思うのだが、そこを説明するのはなかなか難しい。
一応3Dアニメ作品ではあるのだが、主演は既存のキャラというかタレントなのでうんぬん…みたいな。

3Dアバターを用いる場合の課題、というか技術的に難しい部分は存在する。
たとえば顔の表情による感情の表現、指先などの細かい部位の動き、背景やキャラクターの作成(お金や時間がかかる)。
逆に光源エフェクトや物理的に難しい複雑なカメラワークなどは実写には無い利点だと思う。
本作のワンシチュエーションという作風はまさに3D アニメ作品とぴったりであった。
最小限の背景や小物、自由自在の光源、自由なカメラワーク。実写であればカメラが入れない部分や光が入らない部分でも関係ない。
双子の姉妹という設定も同じ顔が作成できる3Dアバターであれば問題ない。
細かい感情の機微がわかりにくい点は声優の演技で保管しつつ、二面性を隠すという点で役立っていたようにも思う。
できること、難しいことをしっかりと把握した制作陣が巧い。

-----------------ここからネタバレ-----------------

さて、ここからは作品のネタバレ込みの考察を。
あの日、蒼は何を思っていたのか。蒼の計画について。

作品の重要なテーマである二面性。
僕が引っ掛かったのは蒼が「今日死のうと思ってた」と言ったシーン。
「今日死のうと思ってた」というのは「蒼が紅を殺したうえで入れ替わる」という説はどうか。
蒼からすると自殺、自分が紅になることで罪を背負える。
蒼は自分が罪を背負えない、裁かれないと感じていた。
ならば自分でない人間になるしかないと考えるのは自然ではないか。
“紅が死んで蒼が紅として生きていくというルート”、これが紅の考えていた結末。

だけど紅から入れ替わりを提案されたのでそれに乗った。
紅の提案した入れ替わりはお互いに死ぬことなくお互いの罪を背負って生きていける。
自分が罪を重ね、紅が償うという仕組みに気づいた蒼からすると天啓のように聞こえたのかもしれない。
また、罪から逃れられると信じてやまない蒼を滑稽に感じ、軽々しく自分を殺そうとしてきた紅に対し「馬鹿だ」と言った。

お互いに入れ替わりを考えていたという構図が美しい。
蒼の結末は“紅の罪を背負った蒼が死んで蒼が紅として生きていくというルート”だった。
紅の計画を上記のものと仮定すると恐ろしいほどに対照的だ。

「記憶の植え付け→罪の意識から蒼が殺人を重ねる」のと「蒼の提案に乗った」のが重なったことで本作の状況が出来上がった。
「蒼による殺人」がなければ入れ替わりは紅の思惑通り進み、「蒼が考えていた入れ替わり」ができていれば蒼は紅として罪を背負って生きていけた。(紅は蒼として死ぬ)
桔梗先生がどれほど噛んでいたのかはわからないが、蒼の重ねた殺人が本作を大きく歪めた原因であると思う。
その伏線が序盤から散りばめられており、作品名「白爪草」もそのひとつ。

「入れ替わっても変わらない人生」「どちらが死んでも同じ」というエンドは最後のセリフに一致する。

以上、蒼の考えていた計画、待ち望んでいた日、会いたい人についての考察。
誰かの考察に役立てば嬉しいなと思う。

サスペンス映画としてもかなり面白かったので考察とか好きな人にもおすすめ。
えるどら

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