シズヲ

ノヴェラ ピカレスカのシズヲのレビュー・感想・評価

ノヴェラ ピカレスカ(2017年製作の映画)
3.6
小さい頃は“悪い子”になりたかった。田舎町で本屋を経営する女性が、親しくなった小説家の言葉をきっかけに些細なバスジャックを計画する……。粗筋が可愛かったのと短編映画に手を付けたくて何となく視聴。

ゆったりと綴られる主人公のモノローグ、閑散とした田舎町の風景など、全編通して妙な長閑さに溢れていて微笑ましい。何処となくユーモラスでほのぼのしている。仄暗くも暖かな色調が印象的な本屋のシーンを中心に、要所要所での撮影や画面構図もなかなか味わいがあって好き。絵的な魅力と無垢な舞台設定などが映画の空気感を支えていて心地良い。あと主演の女優さんなんかも素朴な雰囲気に愛嬌があって可愛らしい。

主人公の根幹に“母親への思慕による幼少期の願望”が存在する辺りに本作のイノセンスさが象徴されている。田舎町の“何もない”情景によって示される閉塞感や停滞感、そういうものに対するささやかな反抗の手段として描かれる“無垢な悪だくみ”。三人組のつるみ方も相俟って、ある種のキッズ・リターンめいてる。まぁ感情のロジックに共感できるというよりかは、作中のムードのおかげで登場人物に愛嬌を感じるという部分が大きいかもしれない。実際主人公達の身の上自体にはそこまでフックがある感じではない印象。

あからさまに配置されてるパンとか、作中で引用されるモチーフはちょっと直接的すぎる気はする。テーマに対する終盤の着地点もそんなにグッと来る訳ではないけど、最後まで穏やかで優しいのでこれはこれで良い気がしてくる。作中の緩やかな空気感や“借りたチューリップ”を使った粋なオチなどのおかげで、何だかんだ憎めない味がある。そういやキムくんの彼女、すぐにフェードアウトしたのでフフってなる。
シズヲ

シズヲ