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アイの歌声を聴かせてのnamikiriのネタバレレビュー・内容・結末

アイの歌声を聴かせて(2021年製作の映画)
4.6

このレビューはネタバレを含みます

前作の「イブの時間」が好きだったので、公開2日目に早速見に行きました。

今までSFでこんなに明るい未来を提示してくれる作品ってなかったなぁというところと、青春群像劇が見事に調和していて、ジブリ作品やディズニー作品のようにポジティブな気持ちにさせてくれる名作だと思いました。

詩音が歌でみんなを幸せにしたいという純粋な想いは、見ていて心地よく、登場人物の感情の機微を表現しきる監督の力量は前作のイブの時間同様、素晴らしいものがあります。

また、映画という短い尺の中で、綺麗に起承転結し、特に終盤に明かされる奇跡的なできごとは、皆さんの胸を打つ事間違いなしだと思います。

【感想】

・ゴッちゃんとアヤ

男性目線での感想です。

アヤの嫉妬、素直になれない気持ち、それを補って余りある一途さに女性らしい魅力を感じます、かわいいしね。面倒くさい感じにも見えますw。

そこをゴッちゃんの器の大きさ(カッコよさ、包容力、頭の良さ含めて)が包み込んでいるんだと女子には見えますよね。だから、ゴッちゃんは王子様だと。

ゴッちゃんサイドに立つと、器用さ故に基本なんでもできてしまう人だと思うんです。

本人にとっては自分が追い求めたい何かではないので、心は満たされてないと思ったんです。男って、何か自分が打ち込める、自分の世界にロマンを求める生き物だと思うので。

アヤと付き合ったのも、それを探している気持ちに近かったのではと、男性目線には映りました。

ゴッちゃんにとっては、自分の価値観とは異なる、学園の王子様という虚像の方を評価されていて、アヤも(照れ隠しと周りの和を乱さないように)それに乗っかった発言をしちゃっていたので、自分の理想とは違ったかと、諦めモードに入っちゃったように見えました。

それを表に出さないのが大人だし、誇って良いことなんですけどね。

本作では、アヤの一途な想いが、ゴッちゃんの本質を実はちゃんと見抜いていて、ゴッちゃんが分かってほしかった事を、言葉でちゃんと彼に伝えるんです。これは、凄く嬉しい事で、それゃゴッちゃんも惚れ込みますよ!

詩音が「Umbrella 」の歌にのせて、「やまない雨はないよ、素直な本当の気持ちを伝えようよ」と歌いかけるところで涙。そして、ゴッちゃんとアヤが二人乗りで、アヤが後ろから愛おしそうに抱きつき、幸せそうに破顔するシーンでは、涙が止まりませんでした。

アヤやゴッちゃんにとって、きっとこの青春の想い出は一生の宝物の記憶になるんだろうなと。

僕は何回か視聴する中で、SF要素のほとんどないこのパートが実は一番好きかも。

・詩音とサンダー

柔道とダンスとアップテンポな曲の「Lead Your Partner」は、リズムとアニメーションが見事にシンクロしてて、技を決める音さえもリズムになっていて、爽快感抜群です。

ミュージカルをテーマにしたアニメはあるし、2.5次元もあるんですが、どちらでもない。ミュージカルxアニメーションの融合した新しい可能性を感じました。

あと、こんな美少女と乱取りしたら、好きにならない訳がない!

サンダーは、実直で相手が機械だろうとなんだろうと、先入観でモノを見ないんですよ。そういう人が1人いるだけで、グループが和むんだよね。

サンダーの恋は実らなかったけど、良い出会いがあると良いなと思いました。

・悟美と十真

最後に明かされた、秘密については、初見はもう完全に涙腺崩壊しました。
😭 😭 😭 😂 😂 😂。

悲しい涙の後に、嬉しい涙。あ、俺泣ける(笑える)んだと思いました。

もう一つ好きな点は、詩音の応援でトウマとサトミの距離が徐々に近づいていく恋愛描写ですね。

新海監督の「君の名は」では入れなかった、距離感の描写をうまくストーリーに織り込んでいるのがニクイ演出です。

「孤独→カメラから見守る→バス停で待ってる→隣に座る→隣に座る距離が縮まる→手を繋ぐ。」

サトミとトウマの心の距離が徐々に近づいていく描写は、繰り返してみても幸せを感じられていいなぁ。

あと、細かいんですが、サトミじゃなくて、内気なトウマが勇気を出して近づいていく描写がリアルで良い👍。

詩音が「サトミは今もトウマをアイしている」事を悟って、トウマ側に勇気を出すように何度も歌い掛けて応援するんですよね。

詩音プロデュースのミュージカルシーン、AI達が詩音を助けるためのエレクトリカルパレードのビジュアルも良いです。

この手の映像は近年多いですが、吉浦監督らしい感情の乗った台本や魂のこもった芝居があるので、ただ絵が綺麗なだけじゃない、燦めき✨に映ったんだと感じました。

・美津子

「今日も元気で頑張るぞ。おー。」
この毎日の習慣は、母性愛ならではの優しさに溢れた「幸せになるおまじない」で、それをとても大切にしているんだなと。

科学者としての理想や信念を貫くため、色々なものを犠牲にしつつも前に進む強さ、一方で現実との葛藤を内に秘めながらもポジティブであろうと努めてるんだなと…。

・詩音の幸せ

ただひたすらに、サトミの幸せ≒みんなの幸せを叶えるために努力する姿は健気だなと思いました。

最後に月に還ってしまうストーリーは感動的で、最後までサトミを喜ばせるために「ムーンプリンセス」を演じ切ったのだなと。

彼女の幸せは、きっと「人の笑顔を見ること」だったんじゃないのかな?

【終わりに】

まず、吉浦監督こんな素晴らしい作品を作ってくれてありがとうございます。

あと、これは私だけが感じたことかもしれませんが、庵野監督や新海監督が取らなかったアプローチで魅せてみたいという意欲作だったと感じました。

「きっと最後に笑顔になれる。」
これを狙ってやりきった、吉浦監督凄いです!ブラボー👏👏👏。

———


以下は元ネタのメモ的なものです、かなりネタバレしちゃってるので、自分で考察したい方は、ここまでで😄。




【元ネタ考察】

1回目を見終わった後に、監督のTwitterで一種のネタばらしを拝見したのと、監督が自分と同い年だったので、この作品のルーツがなんとなく分かった気がします。

1つは、楳図かずお先生の「私は真悟」です。私は当時やっていた青春アドベンチャーというオーディオドラマでこの作品を知りました。

この作品は真鈴と悟という小学生の男女がが工業用ロボットのモンローを使って、ロボットにいろいろな事を覚えさせる事で2人が仲睦まじくなっていきます。真鈴と悟は2人の愛の形を残したいと考え、モンローにどうやったら子供が作れるかを問い、モンローの指示に従い東京タワーからヘリコプターに飛び降りるのです。

その時に奇跡がおこりモンローに意識が生まれますが、2人はそのことに気づかず、その後引き離されてしまいます。

モンローは、真鈴と悟を親と認識して、2人の名前から一文字ずつ取り、自分に「真悟」と名前をつけます。

真悟は、引き離された2人がまだ愛し合っていることを伝えるために「私はまだあなたをアイしています」というメッセージを伝えるべく奔走するのですが、次第に壊れていき最後に「アイ」だけが残るというお話です。

「私は真悟」の中で2人の純粋な子供でいられる時間が終わり「アイ」のメッセージは届かなかったのですが、本作では奇跡的に届きハッピーエンドを迎えられた事は「私は真悟」のファンとしても嬉しく思います。

青春アドベンチャー内での真悟の声は合成音声ぽく、ここで真悟のオマージュなのだと気付きました。

ちなみに本作で結ばれる、十真と悟美の名前は、一文字ずつ取ると「真悟」になります。男女が入れ替わってますが、ここはMy name is Shingo → Your Name(君の名は) からかなw。

🗼⚡️

2つめは「僕の地球を守って」です。この作品はBSアニメ劇場の特番で主にやっていたのですが、非常にクオリティの高いSF群像劇でした。

放映当時、原作も連載中でしたので、最終回(6話)はオリ回でした。そのオリ回が歌をふんだんに使って優しい雰囲気だったので、記憶に残る素晴らしい回でした。

物語の中心人物の「紫苑」がオリ回で、戦災孤児で感情を知らないところから、人間としての感情を得ていく様子は本作に通じるものを感じる、心温かいストーリーです。

エンディングテーマは、私の好きな菅野ようこさんが作曲している「時の記憶」という名曲です。

本作で月を想起させる描写が多数あることからも、この作品のオマージュなのだなと感じました。

🌖♩♬🎵

もう一本、SF特撮映画の名作「2001年宇宙の旅」からのオマージュが多数ありますが、この作品は多方面に影響を与えた原典とも言える作品なので、関連する感想とネタバレ(かなり細かい)はそちらに書きました。

【鑑賞記録】

1回目は、「イブの時間」同様、喜怒アイ楽の感情にストレートに訴えかけてくる点が物凄く、人ってこんなに嬉しくて泣く事が出来るんだという事が新鮮でした。

アニメ好きなら、分かって貰えると思いますが、エヴァ破の参号機搭乗前後のアスカのセリフが心境にピッタリ。

2度目の鑑賞は、SF的な観点と監督からのネタばらし的なところをチェックしつつ、「私は真悟」や「僕の地球を守って」、さらには、「KEY THE METAL IDOL」、「老人Z」など、思春期に観たアニメに想いを馳せていました。まさに「時の記憶」です。

3回目は、極音でミュージカル的に楽しんでみたいと思って。

シンエヴァで、宇部市の実写から、宇多田ヒカルさんの「One last kiss」と「Beautiful World 」を聴きながら、スタッフロールを眺める感覚は、極上の音楽体験だと思ったんです。これは私の中では「私は真悟」の読後感にちょっと近いものがありました。

この映画でももっと良い音響で聴きたいと思ったので立川まで足を運びました。

4回目は、舞台挨拶を見にまた立川まで。応援したいという気持ちと、こんな素晴らしい作品を作った方は、どんな方なんだろうという興味からでした。

ついに、5回目を観てしまった。
シネマシティのシアターaは、噂に違わず素晴らしい音響でした。

海辺の風の音や小さな息づかいなど、これまであまり耳に入らなかった細かい音まで入ってきて臨場感抜群でした。

ほぼ満席で、スタッフロールの後、拍手も起こり、感動を共有できて満足です。

新たな気づきとしては、男女というテーマ。男性には勇気、女性には素直さが必要な事が多いのだと。人が想いを伝えるときに言葉にする事の大切さも。自分自身にも思い当たるところが沢山あるなと感じられました。

6回目 BESTIAで。大原さやかさんが来られるということで。今年はシンエヴァ、シドニア、本作、ARIAと4作ほど劇場では拝聴してますが、生「さぁや」さんの声が聴けて満足です。

両親が別れる描写の真相は、秘密だったようです。研究所勤めの両親ってとこで察してはいますw。

後、岩浪音響監督のざっくばらんな感じは、一種のエンタメですね。お声を憶えておらず、岩田光央さんの声で脳内再生されますが、SHIROBAKOのあの感じそのままでしたw。

BESTIAに関しては、設備が新しいこともあり、映像は今まで本作を観たシアターでは一番綺麗でした。音はシネマシティaが響き渡る迫力だとすると、BESTIAはバランスの良い、空間を感じさせる音のように感じられました。どちらにも良さがあります。

最後に「今日も元気で頑張るぞ!」をみんなでやって、この作品を通じての輪が拡がっていくことを感じられたことも一つの幸せの形なのかなと感じられました。

【サブタイトルに込められた思いとは?】

「Sing a Bit of Harmony」には、監督の色々な想いが詰まっていると思います。

・Sing: 歌う🎶、心に響く・残る💓、シンギュラリティ💫
・a Bit of: ちょっとの〜🤏、〜のカケラ・断片🗑、〜Bit(01)の🖥
・Harmony: ハーモニー♬、調和👬、つなぐ🤝、背負う🥋

調べてみて分かりましたが、言葉選びにも凄いこだわりを感じました。😲
名は体を表すと言いますが、改めて名前をつける事の大切さを実感しました。

【キャスティングについて】

・土屋太鳳さん

話題性の狙いもあったと思うのですが、歌やダンスが上手く、舞台経験のある土屋太鳳さんでないと「Lead Your Partner」の感じは出せなかったのだと思います。あと、普通に歌声が透明感があり良かった。声優としても全く違和感なかったです。

あと、土屋太鳳さんが作詞した歌がありました。詩音のようにポジティブな詩と歌っている笑顔が素敵ですね。
https://www.uta-net.com/song/234059/

“The Light is Smiling In Your Heart”
この一文に詩音を感じました。

・福原遥さん

声優経験も多く、ナチュラルにやさしい声をしてますよね。

女優さんとしても活躍してらして、NHKの朝ドラの主演も決まったとか。

あと、料理をするシーンで気づいたのですが、「まいんちゃん」として、料理で人を幸せにするという意味もあったんだと思います。
https://www.uta-net.com/song/131145/

“キラキラ空見上げ
一番星に祈ってる
いつだって いつだって
夢見ていたいから”

っていう歌詞はサトミの実は乙女チックな性格に反映されているようにも見えます。振り付けもどことなく、詩音の歌う「You’ve got friends」に似ている気もしました。

・小松未可子さん

カラオケで「Umbrella 」を探したら入ってなくて、小松未可子さんが「アンブレラ」という歌を出してる事に気づきました。😲

ご本人が作詞されていて、言葉のセンスの良さにびっくり。
https://www.uta-net.com/song/141812/

本作の「Umbrella 」はこの歌詞のインスピレーションをサカサマにしたかのような歌詞です。
https://www.uta-net.com/song/309900/

「ほしのこえ」の舞台もされていたと、初めて知りました。見てみたいなぁ。

・大原さやかさん

SFアニメでは定番のキャスティングですが、いろいろな優しさを持ったキャラを演じていらして。

アニメファンなら分かってくれると思うけど、
・ARIAのアリシアさんの、見守るやさしさ。
・カレイドスターのレイラさんの凛とした厳しさの中にある優しさ。
・トラどら!の竜児の母の子供のような純真なやさしさ
・シンエヴァのヴンダーオペレーターのスミレの任務への使命感に満ちた優しさ。
とか。

(追記)「月の音色」を拝聴して、この役は大原さんしかいないなと思いました。詩と音と月のインスピレーションはこの番組由来と思えるほど。

こうやってみていくと役者さんの背景を深く理解した上で、舞台の台本を組み立ていったようにも見えました。凄いな〜。

【キャラクター名】

・芦森詩音

SF作家のアシモフ博士
詩音は、そのままの意味と僕の地球を守っての「紫苑」からかな?

・天野サトミ
天空を想像させる。
ARIA, AQUAの作者から
ポケモンのサトシとカスミを混ぜた?

・須崎トウマ
須崎性は分からなかった。
名前はとあるの主人公からかな〜。

二人合わせると→わたしは真悟

・佐藤綾

藤の花言葉→優しい、決して離れない
綾(アヤメ)の花言葉→ 幸せ、友情、燃える想い、希望(→デイジーの花言葉でもある)
Iris→AIの学習に使われる一番簡単なデータセット

・後藤定行

藤の花言葉→優しい、決して離れない
自分探しに悩んでるが、行き先が定まる

“Gotcha”
→got you→ 君を捕まえた!、分かった!

二人合わせて、You’ve got friendsと掛けているんだと。

→ポケモンのMV アカシア(歌詞 藤原基央)
https://www.uta-net.com/song/291668/

これは、Pokémon を通してのBoy meets girl的なストーリーのように見えますが、結構深そうです。小松未可子さんの「アンブレラ」と対照的な男性側の心理(理想やロマン)を歌ってるようにも聴こえました。

Bump of chicken は「天体観測」がちょうど世代で、当時から「幸せの定義」「悲しみの置き場」という歌詞が印象的でした。

僕はそうなんだけど、なんで男って理屈とロマンを求めてしまいがちなんだろうと。もっと素直に月が綺麗だな〜とか思いたいのに。

本作は、ある意味そうありたい姿を見せてくれる。ちょっと麻薬的ではある。(LCLに還元されそうなw)
けど、願わくば現実世界でもそうありたいと思ったのでした。

【謎解き要素(妄想)】

「サカサマのパテマ」を観て吉浦監督作品には、あえて伏せてある謎解き要素があると思ってるんですよ。

この作品の裏テーマは、実は任天堂の元社長であり、「HAL研究所」の元社長だった、故岩田聡さんへのリスペクトじゃないかと私は思ってるんですよね。

今作では、パテマからさらに進化して、ベクトルがある次元では反転、ある次元では同じ向きを向いているように見えるんですよね。AIやロボットの基礎的なところは線形代数なので、作品そのものとの相似性も美しいと思いました。

もう一つ”Bit of Harmony”とキャラクター名に2つぐらい作品にちなんだパズル要素がある気がしてます😲。

こういった点も吉浦監督作品としての作家性なのかなと思って楽しんでいます😊。
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