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アイの歌声を聴かせてのsomaddesignのレビュー・感想・評価

アイの歌声を聴かせて(2021年製作の映画)
4.5
改めて自分がオッサンであることを実感させられた

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国内有数のエレクトロニクス企業・星間エレクトロニクスの企業城下町の景部高等学校に転入してきた謎の美少女、シオン。抜群の運動神経と天真爛漫な性格であっという間に学校中の注目の的になるが…実は試験中の【AI】だった!

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序盤で引っかかって、イマイチ乗り切れなかった。
そもそもオッサン向けに作ってないと思うし、それでどうこう言うのもねえ。Not for me. 刺さる人は深く感動する名作かもしれない。

キャラやクラス内のヒエラルキーの描き方に「桐島〜」の影響をモロに感じた。勉強もスポーツもソツなくこなし、男女ともに人気がある上位グループのごっちゃんが内心虚しさに苛まれて、陰気な電気工作部のトウマのが好きなものに没頭してる分満ち足りている。まるで菊池と前田のよう。他にも、脳筋のサンダーや不安の裏返しでマウント取りがちなアヤ……。それぞれ「桐島〜」でも見たような。

シオンがAIとして進化し人間に近づくほどに、人間からは恐れられてしまうジレンマを主軸に、見た目や立場を超えて繋がり合う尊さがテーマ…だと思う。心閉じて孤独に生きるより、面倒でも誰かと繋がりを持つことの大切さ・貴重さについての物語……なんだろうけど、些細なツッコミどころが最後まで気になって、いまいちストーリーに乗り切れない。ストーリーに対して絵力とサントラが良過ぎて、ストーリーが吹き飛んじゃった気もする。

大企業の大きなプロジェクトにも関わらず、社内はもとより学校にすら話を通してないまま実証実験てアホかと。せめて校長・教頭レベルは知らせようよ。社内機密の漏洩どころか、万が一にも生徒が怪我でもしたら…。人ひとりの職責じゃ済まないし、下手すりゃ国内のAI研究の進捗すら鈍化しそう。
シオンの正体に気づいたサトミの行動もどうかと思うし、祝勝会の顛末や奪還劇の計画についても杜撰。ほとんど勢い任せで無計画に近い。や、そういう顛末含めて企業城下町なら内々に処理できちゃうって闇かも。となると、オカンの得るあの結末はハッピーエンドじゃなくて、地獄の入り口なのでわ。

室内シーンが多く、明るく抜けの良いキャラデザの割に、色味のない閉塞的な場面が多いのも特徴的。10代の息苦しさや焦燥感がジワジワ迫るよう。一方で、バス停の向こう側に広がる風力発電の羽と海と空、ソーラーパネルと夜空……開放感のある天国みたいな自然風景とテクノロジーが同居した背景が対照的。汲々と閉じた心と、いびつで不完全でも広く心を開く尊さに見えた。

土屋太鳳芸達者なー。声優さんと遜色ない。器用になんでもこなす風じゃなくて、行きすぎた生真面目さがロボっぽくて良かった。ピンボケた行動も天真爛漫さに転じてて、終始可愛らしい。今作の封切り舞台挨拶で、真面目かつ熱心に作品への愛を語るうちにうっかりオチバレしそうになって可愛かった。ストイックに研鑽錬磨してるスキに天然ぽい一面が見えるのがチャームで、まさに今作シオンにぴったりなキャスティングであったのだ。

カズレーザーがカメオ出演してたそうだけど、あんまり気がつかず。これまた芸達者でプロの俳優・声優さんとも遜色なかったせいなのか、はたまた自分がうすらボンヤリとしか映画を見れないボンクラなのか。

進化したシオンに出来ちゃうことが多すぎて若干引く。正確にはシオン自身が起こしてるわけじゃなくて、彼女が他のAIに干渉して起きてることだろうけど、人間には区別がつかないので同じことだし。自己増殖したり他のネットワーク機能に影響与えれたり、AIってよりウイルスに近い。

終盤に明かされるシオンのある秘密。もしシオンが女生徒じゃなくて、中年男性教師として学校に潜り込ませてたら、あの秘密はまた違ったニュアンスが出そう。そうでなくても、自分の四六時中を記録されてるかと思うと、純粋な想いに感動するより「そのデータ今すぐ消して!」て思っちゃった。


70本目
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