シズヲ

アイの歌声を聴かせてのシズヲのレビュー・感想・評価

アイの歌声を聴かせて(2021年製作の映画)
4.3
AIロボの女の子と5人の学生が織り成すジュブナイル×ミュージカル。とても優等生的な作品で、“AIが試験導入されたごく近い未来の田舎町”というシチュエーション以外はだいぶ率直な内容。「転校生のシオンが学園で愉快な騒動を起こしながら皆の心を絆していく」「その矢先に事件が起こって皆でシオンを助けに行く」というPVから伝わってくるストーリーも概ね直球でお出しされる。それでもエンタメ性の高さでめちゃめちゃ楽しいので凄い。リピートしやすい面白さがある。これが当初は国内でそんなに注目されてなかったらしいのビビるな。

高橋諒が手掛ける音楽の数々がとても良くて、そこに土屋太鳳の歌唱が加わることでミュージカルのシーンはとにかく多幸感に溢れている。柔道の乱取りをダンスに見立ててジャズ調の歌に乗せるシーンがアイデアも含めて特に好き。“周囲の電子機器をハッキングして操作できる”という凄まじい能力をミュージカル的ギミックへと転用するのも面白くて、メガソーラーパネルで星空を反射してステージを形作る場面など“サイエンスをファンタジーへと落とし込む演出”が楽しい。シオンの歌のルーツになってるのがディズニーっぽいミュージカル映画なのも含めてニヤリとさせられる。

歌唱と映像が話にグルーヴ感を生んでいるおかげで、シオンを通じて主要人物らの蟠りを解消していく前半の展開も軽快で楽しい。このハートフルな学園生活パートだけでもまた見返したくなるから憎めない。後半の劇的な展開に至るまでの溜めに当たるパートではあるけど、“ゴッちゃんとアヤの関係修復”や“サンダーの特訓”など小刻みに山場が提示されるのでテンポ良く楽しめる。最初は別々だった5人がシオンを通じて段々友達同士のグループになっていくのもいいよね(サトミ宅で打ち上げするとこ好き)。クラスメイトの親がみんな同じ企業で務めている辺りに“企業城下町と化した田舎”の就職事情が伺えたり、要所要所で登場人物のさりげない仕草が伺えたりするところ等の作り込みも良い。

この映画の肝はシオンの存在と同じくらい“サトミとトウマがよりを戻すこと”にあって、他の面々がゲスト回的に問題を解決していく中で二人の行く末だけは主軸と共に終盤まで引っ張られていくのが印象的。“シオンの真相発覚”がそのまま“サトミとトウマの関係性の接続”になる構図も面白い。そして前半の学園生活パートでシオンにもサトミ達にも愛着が湧くおかげで、後半からの分かりやすく劇的な展開にもしっかり感情移入できる。かなり無茶であっても既に応援したくなる土壌が出来上がっている。

シオンはあくまで「サトミを幸せにする」という最初の命令に徹してて、登場人物達も“シオンの優しさに救われた”というよりは“シオンを通じて/シオンに後押しされて自分で問題を解決していく”という描かれ方になっている。シオン自身の心の在り方は割と曖昧で、それ故にAIの未来に対するお母さんの懸念も妥当である。しかし、そんな幾らでも哲学や倫理へと持ち込めそうな話題を爽やかな善性で突き抜けていくのが痛快。率直なストーリーで王道の感動を積み重ねていくので、その点も含めて分かりやすく帰結するのが良い。物語の多幸感のおかげで最終的に安心して見届けてしまうんだなあ。
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