しの

恋人はアンバーのしののレビュー・感想・評価

恋人はアンバー(2020年製作の映画)
3.1
1995年のアイルランドの田舎高校における性風俗や同性愛嫌悪の描写は戯画的ながらも実感がこもっており、だからこそエディとアンバーが「安全地帯」として築く関係には刹那的な安らぎがある。一方、物語展開はわりと予定調和で、主役二人以外の描写はやや凡庸。悪い話ではないが琴線に触れず。

タイトルが示す通り、ゲイであるエディ目線に比重の置かれた内容で、結局は彼がカミングアウトするかどうかがドラマの大きな争点であり続ける。そしてここまで頑なにセクシュアリティを押し殺す主人公というのも珍しいのではないか。だからこそ悲痛ではあるのだが、ドラマ的変化がないとも言える。

思ったのは、わりと日本の深夜アニメでありそうなフォーマットだということ。主人公を助けてくれる女子高生、偽装カップル。それをこういった題材で使用するのは確かにキュートでキャッチーではあるが、物語展開はだいたい予想がつくし、自分はあまりその都合の良いフォーマット自体が好きではない。アイルランドのロケーションにしたって、草原くらいしか印象的な画がない。

誇張され戯画化された学園描写のトーンと、終盤のシリアスで切実な展開が上手く接続していない気がした。せっかくエディの父親やイキリクラスメイトなどに、障壁となるキャラクターを一面的には描くまいという意識を感じさせたのに、そこには意外と踏み込まないし、どれほど真剣に観ればいいか不明だ。

とはいえ、明らかに実体験が反映されていそうな性教育ビデオのディテールなど、一定の資料価値はあるかもしれない。なにせ同性愛が違法でなくなってから2年ほどの時代設定なわけで、そう考えると、たびたび登場する「この場所はあなたを殺す」という台詞は誇張ではないのだろう。そうした当時の空気感はある程度体感するにはいいのかも。
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