ひこくろ

こちら放送室よりトム少佐へのひこくろのレビュー・感想・評価

4.3
こんなにも気持ちのいいアイデアと出会ったのは、いったいどれくらいぶりだろう。

顔も見たことのない相手と、テープの録音を通して、やり取りをする。
しかも、それはただの会話ではなく、ラジオドラマになっている。
主人公の星は、あくまでも管制官として「トム少佐」に話しかける。
トム少佐を演じる謎の少女の返事も、あくまでも管制官に向けたものだ。

でも、おそらくは二人ともに、その会話を通して、どうにか相手に近づきたいとも願っている。
それが会話のなかにあからさまではなく現われてくるのがたまらない。

もちろん、ただの恋愛話ではない。
孤独に生きる二人が、やっと認められる相手を見つけて、協力しながらドラマを作っていく共作の話でもある。

1989年という時代設定がまた絶妙に効いている。
スマホどころか携帯電話すらまだ普及していない時代、ラジオドラマもまだまだ隆盛で、テープは高校生たちにとって現役の最強ツールだった。
こういう出来事だって、現実にあったとしてもおかしくなかったのだ。
16ミリフィルムで撮ったざらついた画面が、よりその時代性を感じさせてくれるのもたまらない。

わずか10分の作品なのに、心の底からドキドキワクワクしたし、胸が熱くなったし、泣きもした。
食い入るように観た。
観終わって、これでもかというぐらい、幸せな気持になった。
また、繰り返し何度でも観たいとも思った。

気持ちのいい映画だった。
ひこくろ

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