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らせん階段のryosukeのレビュー・感想・評価

らせん階段(1946年製作の映画)
3.9
シオドマク4本目。事件に動きがない中盤に若干ダレる以外は理想的なノワールといってよい良作。
オープニング、クローゼットの服が揺れ、目の超クローズアップが差し込まれる。その瞳に映る歪んだ映像がターゲットを捉え、女が服を脱ごうと上げた手のクローズアップの震えと叫び声が死を示す。
続いて、茂みを歩くウサギの音に怯えるシーンは、直前のクローゼットの用い方により、茂みという隙間の多い障害物という環境自体がサスペンスを生み出す形になっており上手い。
家に戻ってくるヘレンを木の影から見張っていたずぶ濡れの黒いコート。保安官がウォーレン宅から帰ろうとした時にドアの向こうに立っているオーツも、濡れた黒いコートを着ており、微かな驚きを生み出す。前に見せたイメージを利用して観客の情動をコントロールする手法が見事。
おそらく、ヘレンは自らが唖者であることによる気後れを感じているのだろうが、それを幻想の結婚式において誓いの言葉を述べることができない描写で示すのも何とも気が利いている。発話障害という設定は、電話交換手に番号を告げられないシーンや、保安官に叫び声で助けを求めることができないシーンと、外部の介入を阻ませ、引き伸ばしによるサスペンスの維持に寄与する。
本作では、メイドですらサスペンスフルな挙動を見せ、蝋燭を落として屈んだ隙にブランデーを盗む(一瞬ぶん殴るのかと思った)。この地下倉庫は魅力的な空間に仕上がっていて、螺旋階段を降りていくと一際陰影が豊かな画面となり、蝋燭の火によって女の顔が白く浮き上がる。二度目に女がその空間に降りた時、吹き込む風に揺れる紙がムードを作り出し、ブランチは消えた蝋燭の火によって作り出された闇の中で事切れる。闇の中から左右にはみ出した手だけが最期を表現するのは冒頭と同じく。やはりノワール空間は地下だな。そして、三度目にヒロインが地下に降りていく際、彼女は「蝋燭の教え」を繰り返すのだが...。
散々その目によって異常性を表現されてきた犯人だが、ウォーレン(ジョージ・ブレント)が遂に正体を現した時の見開いた目の変態っぷりは良い。説明台詞で策略を全部種明かししていくのはちょっと鼻につくが(冒頭の車上の会話もちょっと説明的で気になった)。
サイレント映画の上映が終了すると同時に死がもたらされて開幕した本作の終幕は、やはり死をもって迎えられるべきだろう。台詞で述べられていたウォーレン夫人(エセル・バリモア)の銃の腕前が回収され、我が子を殺さなければならない母と、強い父への執着から歪んだ息子の捻れた運命の終着点は、タイトル通り「らせん階段」を舞台とするしかない。
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