幽斎

65/シックスティ・ファイブの幽斎のレビュー・感想・評価

3.0
レビュー済「クワイエット・プレイス」脚本家Scott BeckとBryan Woods監督コンビの長編3作目。主演は女性人気抜群レビュー済「ハウス・オブ・グッチ」Adam Driver。Tジョイ京都で鑑賞。

本作はハリウッドで唯一自前のVFXスタジオを持つソニー・ピクチャーズが、ジュラシック・シリーズをモチーフとしたSF映画を立案。但しSFはコケると打撃が大きく、クリエイティヴはクリエーターに任せる、違うな丸投げで募った結果、監督コンビが手を挙げた。キャストは最小限で超売れっ子から主演を条件にサイン締結。最初に此の話を聞いた時から不安しかない。前作「ホーンテッド」レビューで触れた通り世界一怖いお化け屋敷とは片腹痛い。私の地元京都太秦映画村「史上最恐のお化け屋敷」にも勝てない演出。デビュー作「ナイトライト 死霊灯」スカベンジャーと言う低レベル。

ソニーはライバルの少ない「恐竜映画」シリーズ化したい思惑。大好きな原作者でSFの大家Michael Crichtonの書いた「ジュラシック・パーク」。ジュラシックは遺伝子操作で造られた人工物、本物の恐竜映画に屯とお目に掛かれない。6500万年前、本物の恐竜映画、主演Adam Driver、目の付け所はソニーなのにシャープ(笑)。原題「65」は「65 Million Years Ago A Visitor Crash Landed On Earth」の略。惑星の名はソマリス、誰がどう見ても私が敬愛するAndrei Tarkovsky監督「ソラリス」ですが、不親切の極みでどう言う星なのか全く説明は為されない。

本作をピュアな恐竜映画としてジャッジするなら「2.0」。数年前の通販の御節の様に、中身スッカラカン(関西弁)。此処まで露骨な期待ハズレも中々無い。私の師匠Alfred Hitchcock監督の後継者でスリラーの伝道師M. Night Shyamalan監督の超黒歴史「アフター・アース」より面白くない、本作を正しく形容するなら「大金を投じたアサイラム映画」。心あるクリエーターなら不朽の名作「猿の惑星」目指すべき。なぜ「アフター・アース」教訓を活かせない?。ソレはプロットの根幹「白亜紀末期」と言う舞台に何の意味も無いから。制作段階から罅割れてた事も露呈する。

COVID終息後の作品だが、5回公開が延期された。監督コンビが書いた脚本を見たソニーの重役は、一瞥でスカスカおせちだと気付く。本作は監督2人が出資するハリウッド大作だけど自主制作と言う始めから逃げスタイリング。危険を察知したソニーはプロデューサーにSam Raimi監督を加えるが「オレもドント・ブリーズ3と死霊のはらわたライジングで忙しいんだよ」名義貸しのみ。音楽も当初は名手Danny Elfmanだったが、試写を見て逃げたので「メン・イン・ブラック:インターナショナル」Chris Baconに変更。5回も再編集で弄繰り回した結果→製作費4500万$で初登場1230万$と大惨敗。Driverがプロモーションに積極的で無かったのも当然。一番の問題点は「言語」だと思う。

タイトルカード「6500万年前、地球」登場まで約16分。だが、6500万年前と言う設定が殆ど共有されない。Millsも「何の事ですか?」状態で観客も肩透かしを喰らう。劇場の予告編を見ると「Millsは未来の地球から来て、6500万年前にタイムスリップ」。しかし、ソマリス人なのにEnglishを流暢に話す。話の判るSFなら通訳の人物が居るとか、マシーン的な翻訳を間に挟む事で異世界を演出するが、本作は全米№1映画「バービー」Ariana Greenblattが英語が話せない、駅前留学NOVA(古い?(笑)の様なシーンが続く。そりゃあソニーの重役も慌てる訳よ。

私の専門スリラーは伏線に「穴」開いてると突っ込まれる。SFは設定に「穴」が開いてると怒られる。本作は科学的説得力に乏しく、サプライズが冒頭の「6500万年前、地球」だけと完全に出オチ。途中で付け足したのかKoaとの絆と言う家族愛を語り、作品の立ち位置もブレブレ。「ジュラシック・パーク」は原作通りスリラー映画、ティラノサウルスやヴェロキラプトルに見せ場を与え未開拓の自然と重ねる事で緊迫感も伝わる。しかし、本作の恐竜はMillsの引き立て役、ガヤにしか見えない。私の恐竜映画の認識は大自然の佇まいと恐竜のオーラが共生する世界。本作は夢の国のアトラクションと思えば楽しめる、と、京都人らしい嫌味の一つも言いたくなる。

恐竜映画に詳しい友人は「そもそも論で最新の研究では恐竜が絶滅したのは6600万年前」一刀両断。草食が出てこないのは納得イカない、本作はゴジラの様な「怪獣映画」と言う鋭い指摘も有った。言われて見れば「キングコング」的なモンスター映画、科学考証に基づく白亜紀を描こうとしない。Millsがもう少し「宇宙人」に見えるヴィジュアルなら愚痴の数も減らせた。友人は「ドラえもんの方が余程リアリティ有る恐竜が出る」とお冠。サイエンスの恐竜は新しい知見の宝庫、常にアップデートされる。科学考証を無視したSFは非難されて然るべき。ですよね、恐竜ファンの皆さん!(笑)。

レビュー済「クワイエット・プレイス」プロットの宗教観が強くJohn Krasinski監督からダメ出しを喰らい、続編のレビュー済「クワイエット・プレイス 破られた沈黙」原案者に留め参加出来なかった。更なる続編「A Quiet Place Part III」と「A Quiet Place: Day One」制作中だが、監督コンビの脚本力は私も高く評価するが、やはり演出家としてのセンスは感じない。監督コンビは潤沢な予算で終末思想のヘビーなSFが創りたかった。当初のプランニングで草食動物や哺乳類と恐竜以前のリストロサウルス等、先史時代の単弓類をイメージして、設定も2億年前「三畳紀」設定されたが、スタジオからリアリズムを拒否されファンタジーの恐竜を描く経緯を辿る。結果的にクワイエット・プレイスのモンスターを恐竜に置き換えた「だけ」に見えた。ソマリス人と地球人もルックスもカルチャーも同じに見えて区別付かない。だから友人は「半分寝てた」いやぁ~SFって本当に難しい時代に為りましたね~水野晴郎風(笑)。

終末映画は週末に限る(寒っ)。劇場で観た同志にはビールでも一杯驕りたい気分です。
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