シネマスナイパーF

シカゴ7裁判のシネマスナイパーFのレビュー・感想・評価

シカゴ7裁判(2020年製作の映画)
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テーマやメッセージ云々も素晴らしいけど、まず映画としてめちゃくちゃ面白いよねコレ
映画の持つテーマと、映画の語りのスタイルが一致していると、まあまず間違いなく面白い映画
そして、思想を強く打ち出した映画の場合、面白ければ面白いほどその主張を伝えやすい


マシンガン
オープニングからどんどん映像を重ねていくし、基本的に会話劇のため、登場人物の喋りが絶え間なく続く
前のヤツ喋ってるとこにガンガン被せてくるからね
法廷以外でもそうなのよ
とにかくマシンガントークで、そのスピードも速い速い

ただこの映画、もちろん速さ一辺倒ではなく、緩急のつけ方が恐ろしく上手い
小休止の入れ方はもちろんのこと、タメの作り方も抜群
あの時知り合った輩みんな公務員だったんかいクソ!のところが最高でね
カットバック連続の嫌なヤツら紹介の間に、一瞬現在時制と間違えるテンポ感で新たに女性と知り合う場面が挟み込まれるんだけど、やっぱりコイツも昔知り合った公務員の話でした…と、加速して減速してまた加速の流れが気持ちよすぎる
起立のくだりも、これだけ台詞の詰まった作品にも関わらず、言葉に頼らず見事に笑わせにきていて心底感心する
また、コメディ的な演出に終わるわけではなく、キャラクターの人間描写としてもシンプルで上手いんだよね


構成力がすごい
現在時制と事件当時の時制の並べ方が上手い
もちろん後出しではあるんだけども、映画自体のスタイルであるマシンガントークのスピード感は損なわないバランス
だから、回想を挟んだせいで停滞する、なんてことが起こらない
そこに実際の映像を挟み込んだりしても全く違和感を持たせないんだから、これは作り手の力量がすごいと言う他ないわ
何かターニングポイントとなる事態が起こるときは必ずブレーキを感じさせますが、このブレーキは映画のスピードがあってこそだし、ブレーキのバリエーションを毎回変えてくるのも本当に優秀
終盤に向かっていくトリガーとなるキートン…もといキーマンの登場にはゾクゾクしたね

これまで語ってきたこの映画の魅力が一点に集約されピークを迎えるシーンは圧巻
お得意のマシンガントーク、時制の切り替え、記録映像の挟み込みでどんどん盛り上げていった先に、この映画のテーマを決定的に打ち出してくる
目まぐるしい速さで変わりゆく世論に鈍感な連中、それにより生まれている世間との決定的なズレ、そしてそのズレに無頓着であることがいかに滑稽で、愚かで、危険なのか
我々観客は、誇りを1ミリも含んでいない暴力を目の当たりにする
そして、法廷ものらしく、何よりも会話劇としてのこの映画らしく、言葉の持つ本当の意味を明らかにすることで、登場人物と観客の結束を固めていざクライマックスへと向かっていく
決めつけから入る浅い思考が今の状況を作り出していることを痛感させなければならないと…
ラストはまさに終わらないマシンガントークと言えるけど、その弾が秀逸すぎて、限りなく単純なことをしているだけなのに超泣ける


超豪華キャストで非常に贅沢ながら、とても面白く観易くもあり、歴史の事実を現代の我々に強く意識させ、今一度、市民の声や言葉の重さを痛感し、真に誇りを持った"戦い"の価値を再確認できる
素晴らしいエンターテインメントでした
心の中ではスタンディングオベーションが鳴り止みませんでした