父母ともに癌

シカゴ7裁判の父母ともに癌のレビュー・感想・評価

シカゴ7裁判(2020年製作の映画)
4.7
実際にあったシカゴセブン裁判を題材に採った映画。1968年に起こった左翼学生を中心とした暴動を扇動した、とされる7人+1人の裁判が開廷するが、この裁判がひどい裁判で、ひたすら判事が被告人と被告側弁護人をいじめ続ける。被告人側は内輪揉めしながらも、この不当な裁判闘争に明け暮れる。

無茶苦茶面白かった。地味な映画やろう、と思ったけれど全然地味じゃなかった。
オープニング、軽快な音楽に乗りながら被告人となる8人が紹介されていく。
夢のオールスターが集まったんだな、と思わせる高揚感。実際にどうかはわからないが、そう思わせるのだ。
近年みたオープニングの中で一番テンションが上がった。何度も見るんじゃないかな。とりあえずそこだけでも人に勧めることにする。
裁判の場面はフランク・ランジェラ演じる判事がひどいやつ過ぎてちょっと笑ってしまった。
世界一ひどい判事だ。判事をやらなければならないときが来たらあの逆をやればいいのである。
逆に嫌な判事を演じなければならないときはああすればいいのだ、というくらい見事な演技だったと思う。素晴らしい役者だな、と思った。
大統領入れ替わりものの映画「デーヴ」でも本当に嫌な奴の役をやっていたが、今回もすごかった。
フランク・ランジェラがいいおじいちゃんの役をやっている映画などがあったら必要以上に泣いてしまうことだろう。
サシャ・バロン・コーエンも出ていて、コメディアン面目躍如の弁舌鮮やかな役で、裁判や演説の表の場面はもちろんかなり会館なんだけれど、コメディアンの裏側っぽいナイーブで暗くて芯が強くて頭がいい、みたいな部分もすごく上手く演じていて、達者だった。

最後の戦死者の名前を読み上げる場面。法廷内が一つになるカタルシスがあって素晴らしい場面だけれど、今の日本では分断が進んでいて無理だろう。
「戦死者の名前を読みあげる」という行為が政治的に右か左か保守かリベラルか、という判断が個人個人の中で先に行われて、自らの賛同する党派性の外にその行為が分類されるものならば、行為に加担をしない、という判断を選ぶものも多いはずだ。
アメリカは「戦死者に敬意」という部分では今でも一つになれる国なんじゃないだろうか。
かなりマッチョだけれど、そういう、日本では失われた「国民を横断する道徳」を見た気がした。
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