ギズモX

荒野のドラゴンのギズモXのレビュー・感想・評価

荒野のドラゴン(1973年製作の映画)
4.9
【もしも西部劇の主人公がカンフーの達人だったら?】

そんな疑問に応えてくれるのがこの映画。
本家ハリウッドが絶対にやらないことを平気でやることでお馴染みなイタリア産西部劇、通称マカロニウエスタンが世に放った、カウボーイに憧れてテキサスに流れ着いたカンフーの達人が拳一つでガンマンに立ち向かう痛快娯楽作品だ。

本作が制作された70年代前半のマカロニは『ワンスアポンタイムインザウエスト』などの超大作が公開された後であり、マンネリとネタ切れという問題に直面していた頃。(そりゃ10年で500本も制作したらそうなるよ!)
その代わりに台頭してきたのが香港発のカンフー映画。
今まで見たことがない武術の達人による激しいアクションの連続に、観客は次第に虜になっていったのである。
そんな中でローマの映画製作者はあるアイデアを思いつく。
「西部開拓時代のアメリカにも大勢の中国人が海を渡ってやって来た」
「ならジミーウォングやブルースリーみたいなカンフーの達人が西部劇に登場しても時代設定的にはおかしくない筈」
「丁度いいところに一人の日本人がイタリアで空手教室を開いているから彼をオファーして作ってみるか」

ということで日本からやって来た空手家兼俳優の早川明心を主役に、マカロニ×カンフーという異色作が制作されることになったのだが、そこはマカロニ。"砂埃が舞い散る西部の町で空手を使いこなすカンフーの達人(日本人)が、チョンマゲをつけた赤色の道着のチャイニーズサムライと格闘を繰り広げる"という異様な光景が広がる、まともじゃない珍作が出来上がったのである。
普通なら企画段階でボツを喰らうであろうところをお蔵入りせず公開に踏み切るあたり、当時の製作陣の足並みの速さには脱帽するばかり。

さて、この文章を読むだけならとんでもない駄作だと勘違いするかもしれないが、実はそうではない。
本編を見たら理解してもらえるだろうが、本作は物語の構成が良くできている。

主人公がテキサスに到着してからの序盤は、差別や人間狩りといった不条理な世界を描くマカロニウエスタンの独特のスタイルが炸裂だ。
誰もが銃を持つ世界なのに自分だけは素手という致命的なハンデを、銃を抜かれる前に電光石火の如き拳法を浴びせて撃退していく展開が、作品の独自性を出すのに一役買っている。
しかし中盤以降だと、黒幕の悪事を知った主人公を消そうと雇われた殺し屋達が順番に襲撃してくるという、五重塔に似た香港カンフー映画のスタイルに移行するのである。
更に殺し屋達の特徴もカンフー映画らしさを出したアクの強いキャラばかりだが、約一名を除いて西部のガンマンの風貌から外れておらず、ごく自然的な形で対決を描けている。
このことはタランティーノなどの後の時代の映画監督によって証明されるが、マカロニウエスタンと香港カンフー映画は元々親和性が高かったのだ。
本作はマカロニでありながらもカンフー映画のリスペクトが強く、お互いの良さを活かせたからこそ唯一無二の作品に仕上がったのだろう。

あと、テーマソングが話の内容と違って正統派かつかっこいいのも見どころの一つかと。
主人公の掛け声も癖になる。
何か変わった映画が見たいというのならオススメの一品。
これでしか味わえないものがある!

https://youtu.be/oG6HcAP0D6Y?si=znpwfLLfOi_f26Mb
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