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いつかの君にもわかることのはまたにのレビュー・感想・評価

いつかの君にもわかること(2020年製作の映画)
5.0
会いたい人は、もう会えない人。
今会っておきたいのは、もうすぐ会えなくなる人。

上映時間、95分。うち80分は泣いてたか泣くまいと顔を歪ませてたと思う。への字口からの復帰は容易ではなく、上映後は30人ほどのお客さんの最後に劇場を出たし、パンフレットを買おうと売店に立った瞬間「あ、これ涙声で声上ずるやつ!」と思って1回仕切り直したり。もうほんとダメだった。ボロ泣き完敗大惨敗。顔面筋肉痛。

『おみおくりの作法』の監督ということで、同作の内容は覚えてないけどザ・泣かせまっせな描き方はしない人はだろうという安心感はあったし、実際そういうあざとさとは無縁だったんだけど(『ワンダー 君は太陽』はそれを警戒したまま結局見なかった)、小さなショベルカーが土をトラックに載せている様を父子で眺めてる他愛のないバックショットで不意にこみ上げるものがあって、もうそっからは涙腺バカのズルンズルンだった。

自分がいつかいなくなることがもう決まっている。自分との記憶はいいからこの子にはこの子らしく生きられる環境を残したい。人生を残したい。だから、英才教育を施して寄宿舎学校に行かせて〜と愛情のベクトルが「将来の成功」に向いているカップルはなんか違うと思った(いい人だったけど)。

そのあとも、家族仲はわるくなさそうだけど父親のデリカシーのないガッハッハ感がこの子の優しい心根に合わないかもしれない、反抗期の大きなお兄ちゃんや慈善の心が強すぎるカップルのいつも手を添え合って話す感じよりも同じ年頃の男の子と息子の交わす視線にどうしても相容れないものがあった、ちょっとだけガサツなシングルマザーは頼れる親類もなく経済的にも団地周りの環境的にも心許ないし、赤ちゃんがほしかったカップルはあからさまな女性はもちろん男性の方も控えめながらじっとりとしたアカン感じがあって話にならないし、どうしても決められない。そうこうしている間に確実に時計の針は進んでいく。

しかし、作品は強い葛藤や焦燥の描写とは距離を取り、半ば淡々と2人の時間を切り取っていく。観ているこちらはそれがもう繰り返されることのないかけがえのない瞬間だと知っているから、なんのことはないやりとりにも鼻をすすってしまう(劇場のそこここから始終、泣いてる人間の音が聞こえてた)。

あとから振り返ってもこの過去が輝き出すということはないのだろう。あまりにも日常。ただ、心の奥底で落ち葉のような暖色のクッションがたくさん堆積して、この子のいつかを守るのだろう。そして、そういうニュアンスの描写が自分は好きなんだと思う。子なし独身の男が泣いていい量じゃない。

とりとめもなくなったんだけど、ギヨーム・ブラックが去年新作を出してたことにぜんっぜん気づかず、そんな自分に激怒して「マーベルばっかり見てるからこうなるんや! 単館系もチェックせないかん!」と思い立って調べて本当によかったと思う。一発目がこれは出来すぎ。終わり方も本当に素晴らしかった。

とりあえず、主演のジェームズ・ノートンの『マンチェスター・バイ・ザ・シー』のケイシー・アフレックに匹敵する眼差しの悲哀と優しさは絶対に忘れないと思うわ。子役ちゃんもほんとにいいし、親身になってくれるスタッフの女の子や花鳥風月に魂が漂うと話してくれるおばあちゃんもよかった。
余談だけど最近、花鳥風月に通じる、ということについてよく考えてるのでちょっとタイムリーだった。

いかん、ずっととりとめないぞ。感情がこぼれ落ちるばかりや。ということで、最後いちばんのとりとめないやつ。

なんか、空気公団の「こども」という曲を思い出しちゃったな。やさしい心持ちになれました。いつぞやの民生の「息子」同様、怒られたら消したろってことで歌詞載せて終わろうと思います。

見えるものが
全てじゃないのです
カチカチと
針が進むような毎日を
がんばって
がんばって
生きてください

ありがとう
ごめんなさい
こんにちは
さようなら
おはよう
またね

忘れないでね
あなたに教えた心
忘れないでね
そのことやあの日が
いつか
守ってくれることを
はまたに

はまたに