メガネン

いつかの君にもわかることのメガネンのレビュー・感想・評価

いつかの君にもわかること(2020年製作の映画)
4.5
笑顔の中に本当の悲しみは宿ると誰かが言ったと思うのだけど、これはそういう映画だった。
締め付けられるような痛ましさや、押し潰されるような激しい感情ではなく、ただ静かで優しい不思議な空気が映画館を満たしていた。
誰も彼もエンドロールの後に一言も喋らない。何も言えない。言葉にならない、けれど確かな何かを映画から受け取った風だった。
こんな映画は初めて。

いつか、本当にわかってほしい。
自分は、まだわかっていないかもしれないが。

死について描いた映画なのに、涙よりもクスッと笑えてしまうシーンばかりで癒される。
それは多分にマイケル役のダニエル・ラモント少年が、とても愛らしい演技を見せてくれるからだと思う。それだけに、物語への没入感が強く、自分と同世代の父親ジョンを演じるジェームス・ノートン氏の奥深い表情に、いちいち感動させられた。

本当の悲しみは笑顔の中にある。
それはとても静かで、限りなく豊かな、"悲しみ(sorrow)"と一言では顕せないものだと知った。

因みに、ジョンは作中で「cheers(どうも)」を多用する。イギリス英語で気軽な雰囲気を出した謝礼の言葉。
もちろん、thank youも使うのだけど、明らかに場面によって使い分けているのがわかる。
重要なシーンで、彼が言うのは「cheers lot(どうもありがとう)」だけど、thanks so muchとかではないのは、彼の本当の感謝の気持ちが表れているみたいで、何かが心に引っかかった。

きっと多くの人の心を掴む映画だと思う。
願わくば、このお話のモデルとなった子どもの元に、穏やかで静かな日々が訪れていること、そしていつかその子も"死ぬ"と言うことの形をわかり、誰かとそれを分かち合えることを。