ゆりな

いつかの君にもわかることのゆりなのレビュー・感想・評価

いつかの君にもわかること(2020年製作の映画)
4.5
「あの昆虫みたいに体だけが残る。でも今頃森を飛び回っているよ。もうすぐパパも体だけが残る。でもそばについているよ、空中でね。
パパの姿は見えないけど話しかけて。パパは聞いてる。今みたいにパパの声は聞こえないけど、心で聞こえるんだ。太陽の光の中にいて温めてあげる」
「雨の時は?」
「雨の中にいてびしょ濡れにしてあげる。」
「ブドウにも?」
「もちろんパパはいるよ。ブドウの中じゃなく、味の中にいるよ」

終始「🥺」の顔で観た。
評価も高いのに、あまり話題にならず、映画館での上映も短かったのが残念。もっと話題になるべき名作!

静かながら日常風景の写真を切り取ったよう。
主人公ジョンのに入ったツバメのタトゥー、腕のタトゥーを真似した落書き。
派手ではないのに冒頭から引き込まれて、「これ映画好きは好きな映画だろうな〜」とビビッと来た。

「秘密の森の、その向こう」「アフターサン」といい、自分と同い年くらいの主人公が子育てしている映画を見かけることが増えてきた。
本作は「アフターサン」の雰囲気が好きな人は好きで、同じく、説明なく物語が始まる。
ただ違いは「アフターサン」のように子供からの目線じゃなく、逆でパパの目線から撮られていること。

自分が経験できなかったこと、味わえなかったことを全部叶えてあげたいジョンの気持ちが分かる。
窓拭きの清掃員で裕福でもなく、恐らく学歴が良いとも思えないが、それだけに子供を思いやる優しくて真っ直ぐな気持ちが十二分に伝わってきて、泣けてしまった。(ここまででまだ本編15分)

2023年のベスト映画に「アフターサン」と滑り込みで「PERFECT DAYS」を挙げる人が多いと思うんだけど、やや制作が早い本作も通ずるものがある。
「PERFECT DAYS」の平山のように、ジョンは特別なことをするんじゃなくて、日々の息子との暮らしやクレーン見たり公園へ出かけたり。あるあるな謎の邦題ではなく原題「Nowhere special」がしっくり。

この親子に通じるところは、決して怒ったりイラついたり感情は露わにならないけれど、芯とこだわりはあり、納得していないことにYESと言わないところ。最後までしっかり感動したし、沁みた沁みた。

以下ネタバレ


・ケーキ作り、息子のマイケルの誕生日かと思いきやパパの方。ロウソク全部立て終わって、マイケルを愛しそうに見つめながら何か言いかけたとき、マイケルがロウソクもう一本渡してきて号泣。(見ている側は一本増えた35歳にはジョンがいないのを知っているから)

・「死とは何か」の絵本を読んだあとのセリフに泣いたし「ブドウの中じゃなくて、味の中にいるよ」(味の中=体感できる箇所)で更に泣いた。

・遺品ボックスの中に詰めた大量の手紙も泣けたけど、マイケルがくれた誕生日ケーキのロウソクも一本入ってたのはもっと反則。
監督の通り音楽もなくシンプルに撮ったからこそ、細かい描写にも目が行くし沁みた
ゆりな

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