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いつかの君にもわかることのpepeのレビュー・感想・評価

いつかの君にもわかること(2020年製作の映画)
4.1
未来がない自分が、未来しかない息子のためにできる最良の選択とはなにか。ひそかにそう思いつめる死期の近い父親が、普段通りに息子と仲睦まじく暮らす日常の微笑ましい様子と、里親探しを何度も繰り返す思いつめた様子が、ただ繰り返し描かれます。

強く憐れみを引き出すような形ではなく、淡々と日常を写し取っていく中で、「死」への向き合い方を静かに考えさせられていきます。幼いこどももそれを知るべきなのか、自分がこのような立場になったら、何をどこまで、教えられるだろうか。そしてその行いを正しいと自分で信じられるだろうかなどと、正否が出ない問いばかりが頭の中で巡りました。

やがて、父親が静かにやさしく、息子に死を説いた場面がとても印象的でした。

死とは、かたちだけが残ること。
話せないけれど、触れられないけれど、命は空気の中に漂いつづけている。ブドウの瑞々しい甘さを感じたときに、存在を思い出せば、そこにだって、いる。

こんなに心強く、哀しく、まっすぐな言葉で伝えられる彼は、素敵だと思いました。

少年の最後のつよい眼差し、あの子はきっと成長したときに、あの瞬間を思い出すのだろうな、と想像しました。幼い頃に握りしめた大きな手がきっとそのときとても熱く、強かったことを、そしてそのとき自分が、近いうちの別離を悟ったことをも、もしかしたら、と。
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