KnightsofOdessa

イエローキャットのKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

イエローキャット(2020年製作の映画)
3.0
[カザフスタンの"サムライ"は荒野で踊り狂う] 60点

ファニーな柄の黄色いシャツを着た男ケルメクが仕事を求めて荒野にポツンと建つ映画館にやってくる。"何でも出来ます"と職員に伝えた彼は、求められてもいないのに『サムライ』のアラン・ドロンの細かすぎるモノマネをし始めるが、彼は前科者ということで解雇されてしまう。彼は出所後も彼をモノのように扱うギャングたちに搾取されているが、自前の映画館設立という夢を諦めきれないケルメクはギャングの奪われた金を奪って夢の実現に向けた逃避行を始める。興味深いのは、彼が繰り返し演じるアラン・ドロンは実は彼の中の虚像であって、彼は『サムライ』を最後まで観たことがないのでアラン・ドロンがどうなるかを知らないことにある。エヴァとの逃避行はカティ・ロジエとの淡いロマンス関係の再現とも取れるなど、結末を知らないことで、彼は彼の中で『サムライ』を完結させようと動いているかのようにも見える。

基本的にだだっ広いカザフの荒野で話が進む本作品は、すっとぼけた人々の小ボケ満載なのほほんとした空気感で進んでいく反面、中々の流血沙汰が頻繁に発生するなどのミスマッチが非常に楽しい。ただ、全体的なトーンが軽すぎるので、表層を舐めただけで終わってしまうのが残念でならない。それでも、人生最期の舞いとも呼べるほど渾身の"雨に唄えば"には心打たれてしまった。

あと、なんとなくの類似性だとは思うが、冒頭の映画館がダルジャン・オミルバエフ『July』に出てきた映画館とマジで似てる。ワイエス『クリスティーナの世界』をパクったシーンも登場。荒野との相性は抜群ですね。
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