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荒れ地のlpのレビュー・感想・評価

荒れ地(2020年製作の映画)
4.2
東京国際映画祭にて鑑賞。

ワールドフォーカス部門より今年のヴェネツィア国際映画祭で受賞したイラン映画。
上映日に別会場で上映されている『私をくいとめて』と、今作のどちらを観るかで最後の最後まで迷ったけれど、「次に観られる機会があるか不明」ということで今作を鑑賞することに。
※『私をくいとめて』のチケットは大激戦で、観られたか分からないこともあり、これで良かったのかなという印象。

そんな背景がありつつも、今作の扱う題材には興味があり高めの期待値を胸に鑑賞。そしてこれが期待以上に面白い傑作だった!

舞台はイランのレンガ工場。ある日、工場の経営者が全従業員を集めて集会を開く。その集会を皮切りに、映画はレンガ工場にて生きる人々を描いていく。
映画前半は何人かの労働者に焦点を当て「集会→職場→経営者の部屋→工場に隣接する社宅」の流れで、同じシーンでも視点を変えて、順々に人物描写を行う。この独特の繰り返し描写は今作の大きな特徴だ。観ていても「普通のドラマではない」ということが伝わり、一気に映画の世界に没入することができた。
また、類似した場面と内容を繰り返し映すので、次第に工場内の様子と人間関係がクリアになり情報整理の観点でも効果的な手法に感じた。

やがて映画は一通りの人物描写を終えると、ある見事な「どんでん返し」を作用させて物語の流れを切り替える。
後半は工場の経営者と数人の労働者に焦点を絞り、本格的にドラマを動かす。工場でしか生きることが出来ない悲しき男の姿を浮き彫りにし、その行く先を描いていく。ストーリーのトーンは暗いものになり、モノクロの映像が話の物悲しさを際立たせる。内容には個人的に刺さる部分もあり、見事に嵌まった。ラストからエンドロールに至る流れも圧巻だ。

モノクロの映像に、ダークなトーンのストーリー。同じシーンの繰り返しまであり、完全に渡辺紘文監督の世界観を想起させる傑作でした。今作がヴェネツィアで受賞したことを踏まえると、大田原愚豚舎がヴェネツィアで受賞する日も遠くないかもしれない。映画の内容は暗いものでしたが、この点では希望を抱ける作品でした。
まだ来週の月曜朝一にもう一度上映があり、チケットも残っているようなので、気になる方はぜひ。オススメです。
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