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サマーフィルムにのってのKnightsofOdessaのネタバレレビュー・内容・結末

サマーフィルムにのって(2020年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

[横の断絶、縦の分断を超えて] 100点

映画サークルは恋愛キュンキュン映画のお花畑しかいないので、ゴリゴリの時代劇好きの私達はどうなるんだぁぁ~!と対抗心むき出しな、昨今の観客(鬼滅なりマーベルなりを好きな人とそれを冷笑的に眺める人たち)の分断を具現化したような設定を、映画そのものが消えるかもしれないという未来を前に"結局映画が好きって一緒じゃん"とまとめるのに映画に対する計り知れない愛を感じる。しかし、そんな簡単な"映画愛"映画に終わらないのが本作品であり、時代劇における一騎打ちと恋愛映画(及び現実世界)における男女の駆け引きについて、その全てが一致しているとして、恋愛キュンキュン映画爆発しろ!って言いながら時代劇を作る過程が恋愛映画に様変わりしていくのだから、その証明過程はあまりにも見事。

本作品の"映画愛"は同時代における横方向の分断に留まらない。それに加え、リンタロウ青年が主人公の裸足監督のファンで、ある目的を果たすべく未来からやって来るという奇天烈な設定を導入することで、過去(勝新太郎や市川雷蔵など)と現在と未来の時間的断絶を一つの画面に収め、分断すべきでない映画史を紡ぎ続けることの重要性を説いているのだ。高校生の映画にしては、スケールのあまりの壮大さに目が点になるが、観客の視点と作り手の視点が混在し、それら全てを映画史の参加者にしてしまう展開には明るい未来を信じたくなる。本作品はこういった映画に関する多すぎるとも感じる議題の数々について、並行ではなく上乗せという形で語ることで丁寧に捌いていく。

監督は裸足ちゃんを演じる伊藤万理華の笑顔が魅力的であることを完璧に理解しているので、それを出し惜しみせず、それでも出しすぎずという塩梅がちょうどいい。女子三人組の残りビート板ちゃんとブルーハワイちゃん(とにかく夏っぽい名前という雑な由来らしい)にも、それぞれ個性的な人物造形を与え、裸足ちゃんの補佐的な立ち回りをしながらも、それぞれの成長がしっかり描かれているのが良い。デコチャリのヤンキー、音当てのオタク二人、老けすぎなイケボ熱血マンという明らかにやりすぎな戯画化も無視されることなく画面端で様々なジャンルをごった煮した"青春映画"という大枠に取り込まれていくのも良い。

取り敢えず、伊藤万理華の写真集「エトランゼ」は写真集史上最も優れた作品の一つだと思うので、是非とも買って読んでほしい。
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