kkkのk太郎

サマーフィルムにのってのkkkのk太郎のネタバレレビュー・内容・結末

サマーフィルムにのって(2020年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

時代劇を愛する女子高生ハダシの、映画制作に燃える一夏の経験を描いたSF青春映画。

主人公のハダシを演じるのは、『あさひなぐ』『映画 賭ケグルイ』の伊藤万理華。
ハダシと同じく、時代劇を愛する青年・凛太郎を演じるのは『ナラタージュ』や『おっさんずラブ』シリーズの金子大地。
ハダシの親友・ビート板を演じるのは『喜劇 愛妻物語』『佐々木、イン、マイマイン』の河合優実。

みんな大好きサマーフィルム。
自分の世代の青春映画といえば『ジュブナイル』『ウォーターボーイズ』『ピンポン』などなど。
親に連れて行ってもらった映画館で、なんとなく観たテレビのロードショーで、少年時代に出会ったサマーフィルムの体験は、まるでプールの水光のような特別な輝きを放っており、今でも宝物となって胸の奥に眠っている。
今考えれば「コレはどうなの?」と首を傾げたくなる作品もあることにはあるのだが、夏の青春映画にはそういう細かいことを無視して楽しめる魔力のようなものが備わっていると思う。

前述した『ウォーターボーイズ』を含め、『うる星やつら2』『リンダリンダリンダ』、近年のコミック&アニメでは『映像研には手を出すな!』など、青春×文化祭というジャンルはより一層エモい。エモエモのエモ。
ロングショットでみれば取るに足らないイベントだが、クローズアップしてみれば最高級の煌めきを放っているのが文化祭。
文化祭準備という起点と、出し物の遂行という終点がはっきりしているという点において、映画などの物語との相性が良いのかな、という気もする。

『座頭市』をはじめとする時代劇への言及や殺陣のモノマネ、「時をかける少女」「夏への扉」と言ったタイムスリップ系SFへの目配せなど、この映画は過去の物語群をサンプリングすることによって成り立っているものだということが、冒頭15分程度で暗示される。

主人公ハダシのルックは、髪型顔立ち服装を含めて『時かけ』の原田知世を意識しているし、タイムマシンを開発した凛太郎の同級生の名前は『BTTF』と同じドク。
細かいところでは、ハダシのライバルである花鈴のセリフ「眼中になかったよ。」
女子高生が「眼中にない」なんて言葉使うか〜?と思われるだろうが、これは『ピンポン』に出てきた主人公ペコのライバル、アクマの発言からの引用なんだろう。

膨大な過去の名作をモチーフにして新しい作品を作り上げ、それを未来へと繋いでゆく。
このサンプリングにより作品を構成させるという手法が、本作のキモである「映画=タイムマシン」であるということを体現している。
過去/現在/未来をつなぐものが映画であるという主張を、作品の構造で語るというのはなんとも粋で巧みじゃないですか。
これだけでこの作品、合格〜!💮

「映画=タイムマシン」/「時代劇=ラブ・ストーリー」。
本作はこのような仮説を組み立て、それを証明するような内容の映画となっている。
本作を見事だと思ったのは、この仮説が斬新だったからではない。
この仮説自体は他の作品でも散見されるものである。例えば「時代劇=ラヴ・ストーリー」という考察は、井上雄彦の漫画「バガボンド」で描かれた佐々木小次郎vs猪谷巨雲でのモノローグ「俺たちは 抱き締めるかわりに斬るんだな」を思い起こさせる。

時代劇だけでなく、男vs男の決闘は押し並べて恋愛の匂いが漂う。
ちょうど今『グラップラー刃牙はBLではないかと考え続けた乙女の記録ッッ』というドラマもやってるしね。
ロッキーとアポロなんて、あれはもうほとんどSEXだしね。2人の間にはアドニスという息子も生まれているしね。

話を本筋に戻します💦
本作が優れているのは、これをみた観客が「なるほど!たしかに!」と膝を打ってしまうほど、この証明が見事に成し遂げられているため。
「時代劇=ラヴ・ストーリー」ということを説得力を持って伝えるだけでも難しいのに、そこに「映画=タイムマシン」という仮説の証明を同時に行なってしまう。しかも作品のランタイムはたった97分。
これはもう見事というしかない。単純に巧い!

賛否が分かれるであろうクライマックス。
自分はなんやかんやで2回も観てしまったのだが、1回目はこのラストに首をひねってしまった。
いやこれ最後演劇になっとるやないかい…😅
映画を途中で打ち切るなんて、わざわざ自分の時間を割いてまで観に来てくれている観客に対して失礼だろっ!
大体、映画部のヤツらアドリブ利きすぎだろうが!めちゃめちゃ訓練しているやつの動きじゃん!
とか思った。

しかし2回目で感想が変わった。
ハダシと花鈴の会話での「美しくなくても想いを伝えた方が良い」というやり取りが、作品のカタストロフ的クライマックスの布石になっていたことに気付いたから。

ここでいう美しさとは「整合性が取れている」ということ。
整合性の放棄こそが真に美しいものを生み出すかもね…、という「リンダリンダ」的ドブネズミ美学を最後に持ってくるという大胆さこそがこの作品の魅力であると気付きました!
このエンディングでは作品全体のバランスが崩れてしまう、ということは承知の上でのトライだったのでしょう。
ただただ奇策を打って出るのではなく、ちゃんと前フリをしているという周到さに非常に好感が持てるし、それが上手く作用している。このエンディングはアリ!

このエンディングで、映画部の面々が刀の代わりに持っているのがホウキやモップであるというのもポイント。
我が心の師、甲本ヒロトの言葉「ホウキでもいいんだ ギター持ってなくてさ ロックンロールに憧れて教室の隅っこでワァーってなる すっげぇ楽しいんだ そこがゴールです そっからどこにも行かないよ」をトレースするかのような、この初期衝動の爆発!💥
最後の最後にチャンバラごっこを持ってきて、「時代劇はホウキとモップでのチャンバラがスタートにしてゴール」という、歳をとるにつれて忘れていた感情を思い起こさせてくれる。
このクライマックスには、チャンバラに対する愛情が詰まってる、それが熱いのだ!❤️‍🔥

あと細かいところで良かったと思うのは海のシーン🏖
青春映画で、こんなに天気の悪くて寒そうな海辺のシーンは中々お目にかかれない!
日本海かっ!ってぐらい暗い暗いロケーションだったもん。
ハダシが打ちひしがれているシーンだから、ここは暗い海で正解🙆‍♂️
最終日での撮影シーンだけは明るい海でも良いんじゃ?とも思ったけど、結局ここでもまだハダシの逡巡は終わっていないんだから、やっぱり暗い海で正解なんだろう。…単純に海のシーンを一日で纏めて撮影したからという可能性もあるけど。

なんか小難しいことをグダグダ書いてしまったけど、単純に主要キャストが最高だった!
特にハダシを演じた伊藤万理華さん。元乃木坂の人なんですねー。全然元アイドルに見えない💦
伊藤万理華さんの演技がバツグンに良かった!このキャスティングをした時点で優勝決定🏆
今後もっと活躍の場が広がっていく女優さんな気がする。こんなにエアマックスとバックパックが似合う女性なかなかいないっす!

脇役ではダディボーイを演じた板橋駿谷が最高っ!
これはもう日本アカデミー賞の助演男優賞は決まりでしょう笑
実年齢37歳なのにちゃんと高校生に見える!凄い!
この役者さんも、もっともっと売れて欲しいなぁ。

青春映画の細かいアラに突っ込むのもヤボだとは思うんだけど、全体的に完成度が高い映画なだけに、ちょっとした残念ポイントが余計に目立ってしまう。

冒頭、ハダシと凛太郎が橋から川に飛びこむシーン。この水深がいくらなんでも浅すぎる。これじゃ死にますよ💀
引っ越し業者でバイトするシーン。段ボールから重量が感じられず、なんかこれ中身が詰まっていないんじゃないの?とか思ってしまった。ここはもう少しリアルな引っ越し荷物感が欲しい。
あと最後の上映会のシーン。いくらなんでも観客少なすぎるだろ(まぁこれはリアルといえばリアルだけど)。
低予算映画ゆえの、モブシーンの苦しさか。

タイムトラベルの説明が凄く雑で薄いことも気になったが、どんな映画でもタイムトラベルの説明って大なり小なり違和感があるものなので、ここはむしろ好感が持てた。
むしろ一切の説明を省き、俺はタイムトラベラーだ!ドンッ!くらいの開き直りでもよかったかも。

それよりもビート板があまりにも早く凛太郎の正体に気付いていたこと、そしてそれを受け入れていたことが気になる。
ちょっと言動がおかしいヤツに対して、あんた未来から来たでしょ、なんて思うかフツー?
ビート板の描写はもしかしたら結構脚本から削られたのかな、なんて思ったりもする。
本来はもっとビート板とドクの交流とかを描く予定だったんじゃないかな?ドクが最後現代にやってきたのはその名残だったりして。

物語上で一番飲み込み辛かったのは、未来には映画を作る奴も観る奴も居なくなっているということを知り、ハダシが打ちひしがれるところ。
凛太郎が何年先の未来から来たのかはわからないが、クレープもマシュマロも知らないという事から考えると、かなり未来から来たのだろう。
もしかしたら、そういう甘味類が容易に手に入りにくい、ディストピア的な荒廃した世界になっているのかも。
そんな先の時代なんだから、そりゃ現代とは娯楽の形は変わってるだろう。それが当たり前。
これをハダシが未来に対して絶望するという展開に繋げるのはちょっと無理があるでしょう。
ハダシと凛太郎の関係性が変わるという展開を描きたいが為に、無理矢理問題を提起したような感じがするのでここには結構違和感を覚えたなぁ。

キャストはかなり良いと思う。だからこそ音響担当の2人のキャラ薄すぎ問題が目に付く。
こんなに薄いキャラクターなら別に2人も要らんのでは?
ハダシチームのキャラの濃さには明らかに差がある。そりゃ全員ダディボーイ級のパンチ力があった方が良い、とまでは言わないが、この2人に関してはもうちょっと華のある役者と性格を用意してあげるべきだったと思う。

気になるところも勿論あるが、そもそもがかなり無理な設定に挑戦している作品なのだから、ある程度は仕方ない。
そこを差し引いても、日本映画史に新たな青春映画の名作が刻みこまれたのは間違いないと思う。

気怠げなイけてない高校生。一夏のボーイミーツガール。爆発する初期衝動。仲間との絆。成長する少年少女たち。好きなものは好きなのだと、声高に主張する傍若無人さ。
青春映画に求める全てがここにはある!
さぁサマーフィルムにのって、タイムトラベルに出掛けよう♪
kkkのk太郎

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