もやし

無聲 The Silent Forestのもやしのレビュー・感想・評価

無聲 The Silent Forest(2020年製作の映画)
5.0
ここのところテンション高い映画ばっか見てたせいか、すごくスローテンポに感じて、割と序盤から嫌な描写があってショボンとして、一旦停止したけどやっぱ再開して、中盤からは一気に惹き込まれた。


一般学校に嫌気が差してろう学校に入学してきた主人公。同じ学校に通う同じくろう者の女子ベイベイに一目惚れ。ちょっとだけ仲良くなれる。

程なくして登校バスに乗っていたら一番後ろの席に布がかけられていて何やら激しい動きが。覗いてみると彼女が性的暴行を受けていた。
同乗していた教師は日常的なことのように見て見ぬ振り。

彼女には言わないでほしいと頼まれたが、正義感の強い主人公は個人的に信用している新人教師に告発。教師は衝撃を受け、すぐに彼女を呼んで事情を聴くが、何だか煮え切らない回答ばかりする。
とりあえず告発してもろくなことにならないのだけは伝わってくる。

その教師も正義感満載なので真っ当な方法で強引に事態を究明する。

何となく学校の隠蔽の話なのかなと思ったりしてたけど、そういう単純な問題ではなかった。特に利害がなくとも、人間のコミュニティが自然と作り出す構造、また個人が生み出すそれぞれの事情が生み出す作用、まで踏み込んで描いている。映画紹介では実話だけに社会派映画と明記されていることが多いけど、この映画の中の物語としてはそのメッセージに留まらないと思った。

正義とか善とかって、何でなんだろうってやっぱ思うよね。堂々巡りというか…


ろう学校内の話がメインだから気付きづらいけど、当たり前だけどろう者の方達はどこに居ても生きづらいんだよね… 一歩外に出たら何もできない厄介者扱い。
劇中の、私達にはろう学校しか居場所がない、ここから出て行っても何もできない。という台詞が切なかった。その上ろう学校内でも辛いとなると本当にもうこの事件がどうこうというより社会全体の話なんじゃねえかなという気持ちになってくる。



何だかんだ辛いけど、二人が単純に仲良くなっていく過程はラブロマンス(というには若すぎるけど)みたいで良かった。

アベンジャーズ観に行こうよのくだりは印象的。
「ブラック・ウィドウ好き?」「いや俺はハルクの方が好きかな」「何で? ムキムキな人が好きなの?笑」「そうそう。だって強くて悪者やっつけててかっこいいじゃん」

こんなギリギリで生きてる人にまで関心を持たれるアベンジャーズ凄すぎ問題。





幾人もの生徒たちが自分の内部を凄まじい葛藤を経て泣きながら手話で表現する様は圧巻。こちらまで泣きそうになりました。


事件が表向きになって体質が改善されて、二人の仲もグッと縮まったし、良かった良かったなんて思いたかったけど… やはり人間の本質は変わらない、のかなあ…
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