Walrus

川っぺりムコリッタのWalrusのレビュー・感想・評価

川っぺりムコリッタ(2021年製作の映画)
-
真夏の蝉の鳴き声が終始する中の、生と死の話。

生きるためにつく仕事は、イカを殺して塩辛に作ること。そして骨壺が割れた後、イカの塩辛の壺に父親の骨を入れる。
迷わず蚊を殺したり、蜘蛛が目の前に落ちてきたり、宇宙人が大きいイカの形の風船になって現れたり。
生と死、絡み合っていてどこにも宿っているよう。そして夏のシーンだからか、全てが一瞬だけこの世に存在するように軽く感じる。それがムコリッタなのかな。

美味しい食べ物の話を絶えなく続けながら墓石の売込みをする大人と子供の二人組、自分が死んだ事を忘れたおばあちゃん、亡くなった旦那さんの骨でオナニーする大家さん、過去に息子を失った(だろう)隣人。
登場人物は相変わらず不思議な距離感をもつ。

ペットの犬に三百万円の高級墓石を買う人もいれば、父親に墓石を買ったり葬式をするお金のない人もいるけど、夏には、子供たちが金魚を埋める時みたいに、アイススティックを使うのがいい。夕焼けの中、川沿いを歩きながら空に遺灰を撒くのが夏っぽい。タクシードライバーのお爺さんみたいに奥さんの遺灰を花火に作るのもいい。
結局、なんでもいいから、その存在で喜んだり、苦しい思いをしたりすること自体が墓石や葬式を超えて、主張せず形がないからこそ真実のものになる。

「自分が死んだ時に寂しいって思ってくれる人が一人でもいたら、それでいいと思ってるの。」以前ある時期に同じことを思ってたのでちょっと刺さった。

蝉の鳴き声、蛙の鳴き声、お寺の蜘蛛、カタツムリ、炊き立てのご飯の匂い、台風と豪雨、夕焼け、畳、汗かいた後の風呂、扇風機を回して窓を開けたまま寝る夜。夏はいいな。
Walrus

Walrus