全編が写真みたい。
狙いすぎな感じもなく、派手さもないのに、すべての映像がミニマムで洗練されていて美しい。絵になる。
スマホが出てこないとか、ポラロイドカメラとか、カセットテープとか、数十年前を思わせる小道具。
なのに、どこか短編SF小説のような近未来っぽい世界観。
蔓延する奇病により、ある日とつぜん記憶を失った男。
男は病院の指示で治療のための回復プログラムを受ける。
なんとか記憶を取り戻そうとして。
毎日新しい体験をして、それを写真に撮る。
プログラムに取り組むうちに、新たな出会いがあって…
そういう話だと思っていたら、そうじゃなくて。
林檎がオレンジになったのにも、わけがあって。
叫んだり泣いたり笑ったり、感情をあらわにするシーンがないのに、想いが伝わってくる。じわじわと。
きっと、なにげない日常のひとコマひとコマがポラロイド写真のようなものなんだろう。
そして、それは大切に記憶のアルバムにしまっておくべきものなのだ。
ときどき見返して、懐かしんだり、笑ったり。
あるいは、亡くなった誰かを想って泣いたりするかもしれない。
そんなときは、つらいから、その人の写真をぜんぶ捨ててしまう…?
それとも…?
誰かを失って悲しくて苦しくてどうしようもないってことは、それだけその人といっしょにいられて幸せだったってこと、それだけ素敵な写真がたくさんあるってこと、なんだろうな。