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林檎とポラロイドのslowのレビュー・感想・評価

林檎とポラロイド(2020年製作の映画)
4.4
世界は疑うことも許されないほどの速さで実現し続けているから、ある時、急にわたしのものになる現実に、途方に暮れてしまうのだろう。

多くの人々が突然記憶喪失になるという奇病のパンデミックが起こった世界。病は違えどパンデミックを経験したわたしたちは、この状況に共感できてしまう部分もあるけれど、本作のそれ自体はあまり深刻には描かれていない。ここでは発症すると救急車が手配されるらしく(救急車絶対足りないよね)、劇中頻繁にサイレンが鳴っているので蔓延はしているのだろうけども…。説明されるのは、その病から立ち直るべく組まれた人生学習プログラムのことのみで、後は映像と主人公の表情、その積み重ねから、わたしたちは本作の背景やメッセージを読み取らなければならない。素晴らしいのが、冒頭の壁に頭をぶつけ続ける数カットで、男の最近の暮らしぶりを端的に説明している点。時代設定はよくわからないけれど、世界を何十年も前のツールで構築しているところも面白い。一瞬一瞬を切り取るポラロイド写真のような物語のサイズ感。デジタルの見当たらない時の流れ。わたしにはこの映画自体がとても誠実なものに見えた。仮に展開の予想がついたとしても楽しめる、むしろ全てわかってから観た方が味わいが増す、そんな映画だった。
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