柏エシディシ

脱出の柏エシディシのレビュー・感想・評価

脱出(1944年製作の映画)
4.0
ホークスがヘミングウェイに「映画より小説の方が優れている。試しに君の作品の中で最も出来が悪いものを傑作にしてみせよう」と宣い本作を手掛けた逸話は果たして本当なのだろうか。
原作は未読だが、今や映画の方が著名なのだから、ホークスの言葉は立証されているのかもしれない。
「マッチある?(Anybody got a match?)」
「口笛の吹き方知ってる?~(You know how to whistle, don't you, Steve?)」
などのあまりにも有名な台詞。
もちろんヘミングウェイ(そして脚色のフォークナー)の名文あればこそだろうが、ホークスの演出と俳優陣の演技が素晴らしい瞬間を映画史に永遠に刻みつけた。
舞台立てや設定はボガート主演の名作「カサブランカ」と似通っているが、ローレン・バコールのヒロイン"スリム"の存在が本作の魅力を更に押し上げている。
イングリット・バーグマンの美しさには歎息するしかないが、その前時代的な受身な女性像に物足りなさをあの作品には感じてしまう。
本作がデビューの19歳(!!)のバコールの、ボガートを向こうに回した気丈さとクールネスはモダンで際立っている。
三白眼でタバコを燻らす女性の格好良さは、今ならケイトブランシェットやレアセドゥに継承されているだろうか。
サスペンスの部分に関しては、今の時代の目線から見れば取り立ててのめり込めるものではない。
しかし、ボガート/バコールの見事なコンビネーションをはじめウォルター・ブレナンのエディのコメディリリーフに収まらない哀愁、脇の役者陣とのリレーションシップ、台詞回しが本当に見事で、ホークスの言う通り、映画の素敵さを存分に楽しめる名作だ。
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