カツマ

弱くて強い女たちのカツマのレビュー・感想・評価

弱くて強い女たち(2020年製作の映画)
4.5
憧憬は過去へと捧ぐ手向け歌。いついつまでも更けてゆく、哀しみと優しさに包まれる余韻。忘れられるならどんなに良かったか、呪縛のように回想し、ある人のシルエットは浮かんでは消える。それは過ぎ去った日々、もう終わったはずの愛。にも関わらず、過去からやってきた死は強き女性たちの扉を叩く。

東京国際映画祭2020のワールドフォーカス部門で上映された話題の台湾映画が、Netflixにて全世界に配信された。今作は母国台湾で大ヒットを記録、女たちの力強い生き様を刻み付けた群像劇は、台湾の女性たちを象徴するかのように、美しく逞しく咲き誇っている。日本では懐かしい名前、ビビアン・スーも出演と制作総指揮として名を連ね、初長編デビューとなったシュー・チェンチエ監督をしっかりと支えた。台湾の女性、台湾の街、台湾の文化。自国の特色を随所に盛り込み、一人の女性の内容をも繊細に描いた、しとやかな傑作がここに生まれた。

〜あらすじ〜

台南にて、長いこと女手一人で三姉妹を育てながら、レストランを切り盛りしてきた母、リン。その日は彼女の70歳の誕生日を盛大に祝う予定で、特に三女のワンジアはお店を継ぐことに張り切っていて、厨房ではその日の料理を巡ってすったもんだが繰り広げられた。
そんなワンジアには母に内緒で通い詰めている場所があった。それは20年前に失踪したまま帰ってこなかった、父チェン・ボーチャンの病床を見舞うこと。だが、その日、父親の容体が急変、ついには帰らぬ人となってしまう。
その日の昼間、リンは孫のイーチョンを迎えに出ていた。イーチョンは次女ワンユーの娘で、アメリカに留学することになっていた。一方、ダンス講師をしている長女ワンチンは身体に違和感を覚えて、一人思惑に耽っていた。
そんな最中、さぁ、リンの誕生日のパーティーだ、という寸前に飛び込んできたチェンの訃報。行方知らずだった夫の死を前にしても、リンはその日のパーティーを実行に移すことに決めた。チェンは果たして長いことどこにいたのか?葬式を仕切ることになるリンの内心は複雑であった・・。

〜見どころと感想〜

群像劇として比類のない次元に達している作品で、着地点はあまりにも清々しく、美しく、そして、強かった。旦那が失踪し、一人で苦労しながら三姉妹を育てて、尚且つお店を切り盛りしてきた女性、リン。そんな彼女の内面を三姉妹の心情と反射させ、徐々にクリアにしていくような物語である。この物語の女性は皆、辛抱強く、そして、それぞれに葛藤を抱えながら生きている。それらを少しずつ紐解きながら、ある女性は人生の次なる扉を開け、ある女性は開け続けていた扉を閉める。そんな女たちの一人一人に寄り添いながら、家長であるリンが導き出す回答へと辿り着く。

主演のリン役にはベテラン女優のチェン・シューファンを起用。彼女は今作の演技で国内の映画賞を受賞しており、その演技は非常に高い評価を受けたようだ。実は父親に似ている自由奔放な長女をシエ・インシュアンが、そして母親に似ている勤勉な次女をビビアン・スーが、物語のキーパーソンでもある三女をソン・カーファンが演じている。この三姉妹の演技力も総じて高く、加えて孫娘を演じたチェン・イエンフェイの無邪気さがカンフル剤として上手く作用している。

誰にでも秘密はある。そう、長年見てきた母親でさえも。母リンにしか分からない心のうちを繊細に描き出し、ほどけるように開いていく。序盤ではあんなに朗らかだったカラオケのシーンで、まさか涙を流すことになるなんて。一人の女性の長いしがらみ、そして、それに区切りが付くまで。いくつかの秘密を香料にして、彼女たちの人生を見つめてほしい作品でした。

〜あとがき〜

非常に、非常に好きな作品でした。東京国際映画祭で見なかったことを強く後悔しています。とはいえ、早いタイミングで配信してくれたネトフリには本当に感謝!心にじんわりと染み渡る良作だったと思います。

最近では『フェアウェル』にも共通していますが、一家の大黒柱としての女性を中心にその世代の文化的な側面を強調する手法が今作でも取られています。英語のタイトルは『若草物語』から、原題『孤味』は台湾の食についてのことわざからきているそうです。そんな細かい仕掛けにも唸りつつ、この映画がヒットする『台湾映画の今』をもっと感じてみたくなりましたね。
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