Hiroki

アメリカの友人のHirokiのレビュー・感想・評価

アメリカの友人(1977年製作の映画)
4.5
あまり良くない事が起きた時はヴェンダースかロメールを観る。

今作はパトリシア・ハイスミスのリプリーシリーズ第3作『Ripley's Game』の映画化。
ヒッチコック、ルネ・クレマン、アンソニー・ミンゲラ、トッド・ヘインズと名監督が次々と映画化してきたパトリシア・ハイスミス。最近も御大エイドリアン・ラインが『Deep Water』を映画化してました。
その中でもリプリーシリーズはやはり別格で、特にルネ・クレマンの『太陽がいっぱい』は名作。
この作品でリプリー役を演じたアラン・ドロンの印象がとても強い。

なので今作デニス・ホッパーのリプリー役には違和感がある人も多いらしい。
でも個人的にはこのデニス・ホッパーが本当にかっこいい!
この人は『The Last Movie』によってハリウッドから干されていた時期にヴェンダースから声がかかっての主演なのでいろいろな想いがあったのでしょう。

しかしヴィム・ヴェンダースという監督も幅が広い。
『さすらい』までのロードムービー3部作の後に・サスペンスである今作を撮って、その後に映画製作をテーマにした『ことの次第』、またロードムービーに戻り『パリ、テキサス』、小津安二郎へのリスペクトを映したドキュメンタリー『東京画』、大名作ファンタジー『ベルリン・天使の詩』、SF大作『夢の果てまでも』、ベルリン・天使の詩の続編『時の翼にのって』、音楽ドキュメンタリー『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』...本当に1人の人間が作ってるとは思えない。
共通していることはどの作品もとにかく画が美しい。そしてやはり彼の代名詞は“赤”。赤の美しさ。
初期作品で撮影監督をしているロビー・ミュラーとのコンビはやはり素晴らしい。

内容に関してたしか原作とはかなりかけ離れていたはず。
贋作とかダーワットみたいな設定はリプリーシリーズ第2作『Ripley Under Ground』からの引用。
サスペンス部分に関しては原作ではもう少ししっかりと作られていたと思います。
まーただあんまりヴェンダースはそこらへんを肝とは捉えてないような感じがして。
ラストシーンも原作はヨナタン(ブルーノ・ガンツ)がリプリーを庇って撃たれて死ぬ設定だったものが、車を運転している途中に病気の発作で死ぬ設定に変えられている。(というかそもそも原作では病気はヨナタンに殺人をさせるための真っ赤な嘘だったような...)
タイトルすら『Ripley's Game』を『The American Friend』に変えているしね。

この頃のアメリカといえば、空白の70年代と呼ばれるオイルショックやベトナム戦争の事実上の敗戦などによって衰退が明白となった時代。
一方のドイツは大戦後の東西への分断から61年のベルリンの壁建設によって緊迫していた関係が、70年台になると西ドイツの東方政策により関係が正常化に成功。
しかし相変わらずのアメリカとソ連の冷戦によって分断は続いたまま。
西ドイツにとっては友人であるアメリカの顔を伺いながら、自分たちを守っていくしかない。
そー考えるとヴェンダースのやりたかった事が少し見えてくるような気がする。
そして本職ではない映画監督のニコラス・レイ(アメリカ出身だが60年代以降ヨーロッパで活動)、サミュエル・フラー(アメリカ出身だが晩年はヨーロッパで活動)、ピーター・リリエンタール(ドイツ)、ダニエル・シュミット(スイス)という本当のヴェンダースの友人をたくさん起用している理由もわかってくるような気がしますね。

まーそーいう細かい事を抜きにしてもこの映画、とにかくショットが素晴らしい。
なんと形容するのがいいかとても難しいのだけど、すべてがとても“映画的”。
「あー映画だな。これこそ映画だ。」って感じる画角ばかり。
冒頭でも言ったのですが本当にね、画が美しいんですよ。
綺麗とはまた違う。
ハンブルグの街なんてめちゃくちゃ淀んでいる。それこそ生活だといわんばかりに。
でもヴェンダースにかかるとそれは美しくなり、映画になる。
これこそがヴィム・ヴェンダース特有の魔法。
魔法という言葉あまり使いたくないけど、じゃあ他にどんな言葉が似合うのか。
いややっぱりこれは魔法だな。

本当に素晴らしい映画なので未見の方はぜひ観てほしいです。
今は4Kレストアで綺麗に修復されたverもあるので。

日本大好きヴェンダースは渋谷の公共トイレを舞台に役所広司主演の新作が今年公開になる予定。
ドキュメンタリーなのかなー?
一体どんなことになるのか今から楽しみです!

2023-13
Hiroki

Hiroki