ペコリンゴ

スウィート・シングのペコリンゴのレビュー・感想・評価

スウィート・シング(2020年製作の映画)
4.0
記録。
宝物みたいな1日だった

スティーヴ・ブシェミ主演『イン・ザ・スープ』等で知られる米インディーズ映画の雄アレクサンダー・ロックウェル監督最新作。

普段は優しいが酒を飲むと人が変わる父アダムと暮らす15歳の姉ビリーと11歳の弟ニコ。慎ましくも幸せに暮らしていたが、酒癖が悪化した父は強制入院措置となり、姉弟は別居中の母イヴの元に居候することになる。同居する恋人ボーは暴力的な男であるが、母は助けを求める我が子の声よりも恋人との関係を優先…。

この物語は、そんな辛い日常に身を置く姉弟と、ある日知り合った少年マリクが共に逃避行の旅に出るロードムービー。

頼るべき大人に頼れない子供の目線。

想像や輝ける瞬間のみカラーで表現される一方で、ほぼ全編モノクロの映像が物語る意図は明らか。

それはとっても悲しいはずなのに、不思議と悲壮感は薄く、自分たちの足で歩を進める姿はひたすらに逞しい。互いに向ける視線には心地良さすら感じられてずっと観てられる気がする。これは音楽の力も大きかったかな。

主役の姉弟を演じたのは監督の実子、母親役も監督の奥さん、父親役のウィル・パットンは監督の親友らしく、かなりパーソナルなキャスティング。

マリク役の子はスケートパークでスカウトしたんだそうで、この辺はインディーズならではの自由な感覚なんでしょうね。姉弟共々、印象的な表情を見せてくれます。

正直『イン・ザ・スープ』は良く分からなかったってのが本心なので期待はしてなかったですが、観終わる頃には静かに心を震わせて貰えた作品でした。

“世界は悲しいけれど 幸福な1日はある”

その1日を目指して歩いて行こう。
今日も明日も明後日も。