TaiRa

アイム・ユア・ウーマンのTaiRaのレビュー・感想・評価

アイム・ユア・ウーマン(2020年製作の映画)
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70年代犯罪映画を踏襲しつつ再解釈するみたいな。地味だけど良い。

マイケル・マンの『ザ・クラッカー/真夜中のアウトロー』に出て来るチューズデイ・ウェルドから発想したらしい。故にスペシャルサンクスにマン氏の名前。かつての犯罪映画に登場した、「男たちの物語」から省かれた女たちの視点を捉え直す。強盗犯の夫を持つ妻は子供も持てず、ひとり退屈に家の中で与えられた物に囲まれ暮らしている。前半に複数登場する男が扉を閉める行為は、彼女を蚊帳の外に追いやる事の象徴。つまり『ゴッドファーザー』ラストのあの扉と同じ意味。夫から謎の赤ん坊を預けられたと思ったら、夫が「仕事」に行ったっきり失踪。何が何だか分からないまま妻の逃亡生活が始まる。護衛役の黒人との抑制された信頼関係の構築など、人間関係の描き方が丁寧。逃亡劇と言えど暴力の応酬などは必要最低限。主人公の観測出来る範囲の描写に絞る。一人で赤ん坊の世話をしなければならない、ワンオペ育児モノの側面も入るのが上手い。男たちの身勝手さに振り回される女の話。隠れ家を訪問して来る謎の隣人オバサンがちゃんと不穏。この辺のスリルは面白い。切迫した状況下でも子供用のミルクやオムツを買いに行ったりするリアリズムが良い。ダイナーでのやり取りはルック含め『ザ・クラッカー』オマージュ。後半、もう一人の妻が登場してから女性犯罪映画としてグレードアップ。あのキャラクターは『グロリア』的な強い女像で、主人公の一つの指標になる。ディスコでの唐突な混沌から逃れ、行き着いたコインランドリーでの女同士の優しさ。あのお婆さんの無条件の優しさに女性監督のテイストを感じた。夜のカーチェイスも艶っぽい。終始、赤ん坊が可愛い。
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