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クライマーズ・ハイのTJのレビュー・感想・評価

クライマーズ・ハイ(2008年製作の映画)
4.0
「坊や」、「僕」とこき使われ、新聞記者の雑用のアルバイトをしていた頃、この作品に出会いました。

「スクープは山登りと同じ」1985年8月。昭和の煙たさが篭る社内、けたたましく鳴る電子音に振り回される疾走感、事件を追う社会部の執念。不恰好で泥臭いが等身大の男たちの魅力が詰まっています。

北関東界隈一の事件。日航旅客機墜落事故を追うストーリー性と、名優たちの鬼気迫る表情、壮大なスケールをまとめた構成力は流石です。

降版時間とのギリギリの勝負。異常な男の嫉妬と、狂信的な報道への熱意。極限まで精神と肉体を削るサラリーマンの生き方。過度な演出はなく古き良き新聞屋の姿がそこにはありました。

リベラルな紙面に差し込まれた現場雑感。真夏らしく青々と茂る緑に、凄惨な現場が不似合いで悲しくて。色褪せてはいけない史実、それを残した記者たちの想いに終始身が震えます。

「チェック、ダブルチェック」これは恐らく失敗の物語。権力に臆病で、正義に堅実で、真実に愚直で。どれだけ手を伸ばしても報われない努力がある。それでも主人公の辿った轍を誰かが追い、そのハーケンに手を伸ばす勇気を与えてくれる。勇ましい気持ちになれる後味。

自然物と人工物。山登りと記事作り。被管理者と管理者。北関東と海外。何より事実を伝える正義感と、被害者を悼む心に溢れた作品。近年の邦画では間違いなく一番の名作かと。事件から30年となる今年、また見返すべき作品です。
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