空海花

ヒルビリー・エレジー -郷愁の哀歌-の空海花のレビュー・感想・評価

4.1
名匠ロン・ハワード監督作。
アパラチア山脈の田舎に暮らす3世代にわたる家族の物語。
原作は、J・D・バンスの自伝的回顧
録『ヒルビリー・エレジー:アメリカの繁栄から取り残された人々』

主人公J.Dの心の故郷はケンタッキー州ジャクソンにあった。
自然に囲まれて、助け合って暮らしていた古き良きアメリカ。
豊かな緑溢れる故郷には家族や隣人たくさんの人達が。
しかし石炭産業の繁栄に伴い、家族はオハイオへ移住する。
似たような家が均等に無機質に建ち並ぶ住宅地が家族を小さく分ける。
だが産業は次第に廃れていく。
アメリカンドリームに手が届かない。
アメリカの光と影。ラストベルト。

希望が見えない少年時代を過ごすJ.Dだったが、東部の名門イェール大学に進学する。
学費に困った彼は、恋人がすすめる法律事務所のインターン採用試験を受けようとしたその時
母親のことで故郷へ戻らなければならなくなる。
そして彼は自身の辛い過去と向き合うことになる。

懇親会?のような食事をする場面
彼はテーブルマナーがわからず彼女に電話する。
彼は白人であり、彼女はインド系という対比。彼女は多くの学生と同じく裕福である。
そして、このテーブルで故郷や母のことを侮辱されたと思い、苛立つ。
内にある怒りの表現、

彼は成功を掴みかけているけれど
実際にここまで這い上がれることは稀だと思う。
物語はここから彼の少年時代と交錯していく。

13歳で妊娠した祖母と
麻薬に依存するようになってしまう母
これを名女優グレン・クローズとエイミー・アダムスが演じる。
母エイミーは看護師という仕事にあるが、ストレスから薬物に溺れていく。
子供時代に愛情を受けられなかったことも想像に難くない。
気性も荒く、そんな場面に何度も心が痛む。
トイレにいったいどれだけの注射器が流れているのか…

お婆ちゃんのグレン・クローズがTシャツ姿でタバコをふかしまくる姿がカッコいい。
アカデミー賞、ゴールデングローブ賞で助演女優賞にノミネート。
私はこれを観た時にはてっきり彼女が受賞すると思っていたが、本作は否定的な批評がかなり多く、その流れにはなかった。(ラジー賞にまでノミネートされた)
原作の副題にある、取り残された白人労働者たちの不満と怒りはもっと大きいのだろう。

祖母が心を決めた時
少年が心を決めた時
母が何とか振り絞り心を決めた時

感動したし、諦めないことは本当に大切だと思った。

だが、それだけでは苦しいから人々は何度も声を上げている。

郷愁の哀歌にふさわしいエンディング曲は、冒頭の豊かな風景を連想させた。
音楽はデヴィッド・フレミングとハンス・ジマー

【補足】
ヒルビリーは「田舎者」と訳されるが
白人貧困層(プアーホワイト、ホワイト・トラッシュ)の中で
ジョージア州・フロリダ州出身者はクラッカー
アパラチア山脈周辺の出身者はヒルビリーと呼ばれる。


2021レビュー#094
2021鑑賞No.121

3月鑑賞。
結構良かったのになぁ😌
食事のくだりの心意気感動しました。
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