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総理の夫のykzrのネタバレレビュー・内容・結末

総理の夫(2021年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

原田マハ先生の作品が元々好きだが、この作品は心が柔らかくなる作品だ。彼女の作品の多くは、強く自立した女性が多いが、凛子は中でもそれが強い。
作品の中で主人公の日和はどこか頼りないお坊ちゃんで、最愛の妻が日本初の総理大臣になり、彼の大切にしていた何気ない日常が一変していってしまう。これに対し、普通の人間ならば、抵抗感(もちろん彼にもあったが)から嫌悪などに変化するだろう。しかし、彼は彼女を支えていくことを選ぶ。日和は凛子と共有する時間が大幅に減り、すれ違うことが多くなった。そこにきて初めて自分が見ないふりをしていた、彼女の強さに甘えていたということに気づく。凛子が日和の言葉や何気ない素直な態度に、心から安心感を持っていた描写は多くあったが、中でも切迫流産になった時、それがはっきりと描かれている。頼り、頼られるという二人の人間関係が非常に良いと思った。
現代日本において、ガラス天井を突破した女性が、ライフイベントによって志半ばで退くことになる、というのは悲しいことに珍しいことではない。あえてネガティブな書き方をしたが「志半ばで退くことになった」という事実が、作品内では「そうではなく、前進するためのもの」と日和が訴えており、本当にそうなれるような社会がいいなと感じた。物語で凛子の掲げた「変えていきたい世の中の当事者」は凛子自身でもあるのだ、ということ。社会から誰も取り残さない、という一貫した姿勢が作品全体にも反映されていてよかった。
最期の言葉が全ての始まりの言葉だったので、また出張帰りに彼女は総理大臣になるのだろう。前向きになれる作品だった。
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