けーすけ

ある人質 生還までの398日のけーすけのレビュー・感想・評価

ある人質 生還までの398日(2019年製作の映画)
4.0
ダニエル・リューはデンマークの代表にも選ばれるほどの体操選手だったが、怪我によりその道を断念し、写真家として生きていく事を夢見ていた。戦争地域の生活や子供たちを写し、世界へ発信したいと思っていたダニエルはシリアへ行き、非戦闘地域で撮影をしていたのだが突如現地の武装勢力に拉致をされてしまった。ダニエルと連絡が取れなくなった家族達は人質救出の専門家に依頼し、ダニエルを助け出す為に奔走するが・・・





“事実に基づく物語”として、ダニエルがシリアでIS(イスラム国)に誘拐・監禁され人質となった13ヶ月の間の事が描かれます。

ある程度覚悟はしていましたが、監禁時の劣悪な環境もさることながら、拷問シーンや処刑シーンもあり、想像以上に苦しくなる映画となっておりました。苦手な方はご注意ください。
とにかく辛く息苦しくて、体感では3時間くらいに感じる内容でした。




タイトルからダニエルのラストは当然ながら想像できてしまうのですが、ダニエルと他の人質との交流も映し出されつつ、「自分は生きてここを出られるのか」「彼はどうなってしまうのだろう」と、ダニエル以外の人物についても気になってしまいます。

途中から人質として加わったアメリカ人ジャーナリストのジェームズ・フォーリーは、その気丈さや周りの人質を気遣う優しさを持っており、ダニエルとの友情も生まれます。ジェームズがどのような立場にいたのか、終盤には分かるのですが、それを知り涙が止まりませんでした。



ダニエルの家族たちは彼が人質となっていると分かり、何とか助けたいという一心であちこちに掛け合います。ただ、デンマークは国としてテロリストとの人質交渉には一切応じない方針で支援はしてもらえない。ただ、秘密裡での交渉は可能で人質救出の専門家に助けを求めて、身代金となるお金を集めるために奔走します。


人の命はお金では買えない、家族や友人であれば何としてでも助けたい。誰だってその気持ちがあって当然です。ただ一方で、身代金を払う事によりテロリストを支援する事になる、という倫理的な矛盾をもっております。
この部分を鑑賞中にもずっと考えておりましたが、自分の中では答えは出せませんでした。



日本人においても拘束されたり殺害された人たちがいて、都度「そんな所行くなよ」という声も出ます。それも正しいとは思いますが、現地のリアルな状況を伝えたいという思いを持って取材する人たちの勇気も否定できないものであると思います。

ダニエル誘拐に関しても、どういった事が起きていてその裏側に何があったのか等、こうやって映画で観られて知る事ができたのには意味があったのだろう、と感じました。





今回の試写会上映後、ジャーナリストの安田純平氏と、映画評論家の森直人氏によるトークイベントがありました。

少しでも安田氏の名前を知っている人の中には「安田純平?勝手にシリアとかに行って誘拐されて、救出されてバッシングされまくった人でしょ」となるかと思います。正直に言って、僕もその一人でした。

安田さんの事は当時メディアでもあれこれ言われていて、僕自身も「自己責任やろ…」とか色々思っていましたが、今回話が聞けて本当に良かったと思っており、この映画とあわせて見方は変わりました。

もちろん安田さんが話した事の全てが真実かはわからないけど、少なくとも現地にすら行っておらず、現地の事を何も知らない自分が批判する立場にはないな、、、と。





以下、印象に残った話をいくつか交えつつ。


シリアなどでは身代金ビジネスが成り立っていたようで、安田さんが誘拐されたあとに人質交渉人から安田さん家族へ売り込みがあったとか。民間コンサルのようで、金額を聞いたら見積書が送られてきたという(月20万ドル?)。


さらにはテロ組織が「日本政府に連絡をしているが、全く返事が無い。どこに連絡したらいいのだ?」と安田さんに聞かれたとかいう話も(会場内からは笑いが起きました)。これが事実であれば日本政府は無視していたという事になりますが、事実は果たして…。


当時ISが台頭してきていたが、それ以外にも小さな派閥はあり“あいつら(IS)と自分達は違う”というグループも多くあった。
安田さんを拘束していたグループはメディアに映像を5000ドル位で売っていたらしい。「今となっては商売誘拐だったと思う」という推測もされていました。


人質になり、身代金交渉になると「人質がまだ生きているのか、本人なのか」という確認が行われます。家族しか知らないような質問を、交渉人を通して人質に確認するそうで。この映画でもダニエルや、その他の人質に対して行われるシーンが描かれます。
つまり、これは政府もしくは家族等が身代金の交渉を行っている、という事になります。

(当時)アメリカやイギリスはテロリストとの交渉には一切応じないという姿勢でした。戦争を行っている地域もあるわけで、そのパワーバランスを考慮すると至極全うな対応かと思います。

この“本人確認”について意識してこの映画を観るとさらに胸が詰まる思いが生まれる所があるかと思います。


尚、安田さんが本人&生存確認の質問を受けたのは解放後にされた一度きりとの事で、水面下での身代金交渉は否定されておられました。




調べた中で安田氏に関して公平に記載されている内容と思える記事。
『安田純平氏へのバッシング、いちジャーナリストとして思うこと』
by安田峰俊
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/58267?imp=0



2021/02/07(日) 試写会にて鑑賞。渋谷・ユーロライブ G-10
[2021-017]
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