明石です

ドント・ブリーズ2の明石ですのレビュー・感想・評価

ドント・ブリーズ2(2021年製作の映画)
1.7
何の変哲もない無害そうな老人の家に忍び込んだら、その老人が海兵隊出身の退役軍人で、あまりの強さに返り討ちにあうというアクション風ホラーの第二弾。

前作の舞台は普通に現代のデトロイトだった気がするのだけど、本作は、100年後?というような、かなり強引に世紀末感を演出された街になってる笑。ギャング組織が臓器売買のために少女の家に押し入り拉致しようとするあたり。盲目の老人vsギャングという前作でウケた設定を活かしつつ新作を作りたい製作陣の頭の中がX線みたいに透けて見える。大体こんな感じ。

①続編が必要
②老人の家に強盗が押し入る理由が必要
③世紀末的世界観にし、臓器売買のブローカーが暗躍する街にする
④健康的な娘(前作では影さえもなかった)を用意し、ブローカーに彼女の臓器を狙わせる
⑤老人宅に無事、強盗が押し入る
⑥娘を取り返さなきゃいけなくなる
⑦老人がブローカー宅に押し入る

なんとしても続編を作りたいという強固な意志が先行し、老人の家に強盗が入らなきゃいけない理由探しから始まっていて、なんだか『パージ』を思わせる逆転現象が起きてる。製作者の脳内が作品を見ただけでまるまる透けてしまう、というかそれをチャート的に図式化さえできてしまうのは致命傷だと思う。なによりもまず映画的な事情が先行してる作品は、その時点で、もういいかな、と思っちゃう私ですが、さすがは気合の入ってる続編なだけあって、良い点もちらほら。

カメラワークはとにかく素晴らしい。それもちょっとやそっとではなく、こんなの見たことない!!という感動レベル。主人公の少女を、家屋の中でクレーンを使って(この時点で凄い)ぬるぬる追いかけつつ、複数のカットを切り替えつつ飽きさせない演出。しかも肝心なシーンで効果音に頼らない。ちゃんと力のある人が作ったホラー映画という感じですね。『クワイエット·プレイス』もそうでしたが、設定の時点で出オチ感のある(映画的な引きはあるけども)安易な発想からスタートしていながら、一度ヒットしてレールに乗ってしまえば、それなりの予算と才能が集まり、意外にも「観れる」作品ができてしまう好い例だと思う。

ただ一点、これだけは、というのがあって、それがすべてを台無しにしている。中盤で明らかになる、強盗団が単なるブローカーじゃありませんでした、というもはやホラー映画あるあるになりつつある「驚き」の種明かし。それが本当にいただけない。まず、そうした後づけの驚きは驚きじゃない。序盤のブローカーと少女が出会うシーンでその「隠された真実」をスルーし、わざわざ老人宅に強盗しに行った上で「真実」を明かすのは、あまりにも都合が良すぎる。思えば『シックスセンス』以来、ホラー映画のストーリーには「驚き」ないしは「どんでん返し」を用意するのが定石みたいになってるけど、私はそれがとてもとても嫌い。ホラーにはそういうのがあった方がいいだろうという消極的な理由から作られた「どんでん返し」に鑑賞者がノれると安請け合いされているところからすでに気に食わぬ。その意図は冒頭の数十秒の時点で明らかで、少女が犬に追われ死に物狂いで逃げている(ように見える)緊張感溢れるシーンが、実は飼い犬との演習でした、という見せ方の時点で、この映画が即席の驚きに頼った1ドル札より薄いプロットの作品だというのが見え見え。それがすべての良さを消している。

そもそも『シックスセンス』がどんでん返したり得たのは、登場人物自身が「真実」を知らなかったからであって、彼らが騙される過程を見て、観客の方も騙される(どんでん返し映画の元祖『猿の惑星』もまさにそう)。本作のように、登場人物が真実を知っていながら、その真実を素通りし、まるで何も知らないかのように物語が進んでいき、完全なる後出しで種明かしがされるところに、消しようのないない作り物感がにじみ出る。それでいっそう、ホラー映画が陳腐になる(最近公開されたエスターの続編も、その同じ過ちを犯していましたね)。たしかにホラー映画に「驚き」は必要だし、それなくしてホラーと呼ぶことは難しいという風潮があるのはまあ仕方ないと思う。でも「なんとなくこういうのがホラー映画っぽいから」とか「他の作品がやってるから」とかいう消極的な理由で作られた驚きなら、いっそ無いほうが良い、ということをホラーの作り手はそろそろ認識しなきゃと思う。

1ホラーファンとして、こういう鑑賞者の知性を舐めたようなシナリオには義憤を感じずにはいられない。適当なB級映画がこういうことをやる分には大歓迎なのだけど、きちんと予算をかけたヒット作の続編がこういう陳腐なことをしていたら、ホラー映画は衰退しちゃうかもと思う。その1作のヒットのためにチープさを積み上げるようなことをしていたら、ということ。といって、「その1作」の作り手としては、その1作がヒットするかどうかにしか興味がないのが普通なわけで、そこは難しいところですね。それまでの常識をひっくり返すような革新的な映画(それこそシックスセンスとか)が生まれれば、同ジャンル内の作り手は皆その革新性を模倣し、結果として陳腐なものに変わっていくわけだから。なので余計に、2020年代の新しい(日付でなく、内容的に新しい)作品に期待ですね。

最後に良いところを書く。前作に引き続き老人のアクションシーンは見もので、敵の口に金属みたいなの突っ込んで掌底を喰らわせるシーンは謎の快感に声が出た笑。ストーリー的にも、何も知らないコソ泥が老人宅に押し入るだけでは芸がないと思ったのか、今度は、老人がコソ泥宅に押し入るよう話を転換してるのは面白いと思った。まあそのために(前作では影さえなかった)娘を用意したり、折よく、血縁者の臓器が必要な母親が出てきたり(血縁者のドナー以外受け付けない体という激ヤバの設定よ、、)と、超が140個くらい付くほどには製作者にとって都合のいい展開になってしまったわけだけど。この作品を高評価するには、良くも悪くも、私はたくさんの映画を見てしまった、ということになるのかもしれんぬ。絶対的な数としては大したことないけど、この映画がどれくらい安易なのかわかる程度には観てきた、ということ。やっぱり、予定調和的な「驚き」に驚きなんてないよね。
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